「岩田さん」と呼びたくなる人柄
クリエイターとして、そして経営者としての偉業が注目される岩田氏だが、彼を語る上でその人柄の良さも忘れてはならない。そもそも彼のプログラマーとしての原点は、ポケットプログラム電卓でゲームを作り、隣の席の友人に楽しんでもらうというものだったそうである。

また彼は、世界的なゲームクリエイターである宮本茂氏の考えを言葉にしようと努力していた人物でもあった。「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」という宮本氏の考えを世間に広めたのも彼であり、この言葉は瞬く間に人口に膾炙していった。
あるいは別の対談記事では、岩田氏が自身の趣味を「目の前の問題解決」だと語っている。またあるいは、糸井重里氏が岩田氏のことを「みんながハッピーであることを実現したい人なんですよ」と語っている。とにかく岩田氏は、他人のために動くことが自分の幸せだという稀有な人物だったのだ。
たとえどれだけ仕事が優秀な人物でも、周囲の人に好かれるかどうかは別の話。だが岩田氏に関してはとても親しみを持たれていたようだ。人のために働くことができ、さらに相手の感情すら考慮した論理的思考でリーダーとしての役割も果たせる。本のタイトルである「岩田さん」という言葉通り、誰からも好かれやすい人物であったことは間違いないだろう。
私は岩田氏と会ったことはないが、それでもこの本を読むと大事な人がいなくなってしまったという気持ちになり、涙がにじむ。単純に役に立つだけの話ではないところが本書の、そして岩田聡という人物の魅力なのだろう。