悪質すぎる「あおり運転・暴行事件」はなぜ起きたのか?加害者の心理

悲惨な事件を防ぐ「治療法」は存在する
原田 隆之 プロフィール

悪質あおり運転への処方箋

しかし、一連の研究を見ると、これらの運転中の「悪態」と、今回の事件のような悪質で粗暴な危険運転とは、質が違うと考えたほうがよさそうである。

それは犯罪かどうかとの線引きだけでなく、その基盤に「ダーク・パーソナリティ」や「認知のゆがみ」が存在し、さまざまな問題行動や反社会的行動への親和性が高いかどうかという違いである。

しかし、希望を持ってもよいのは、こうしたパーソナリティや認知は、いずれも「治療」可能だという点である。

すでに「運転者怒り表出尺度」「運転者行動尺度」などという「診断ツール」も開発されている(5)。この項目をチェックすることで、本人の問題性やその深刻度が評定できる。

そして、そこでわかった問題性をターゲットとして、認知行動療法という心理療法を実施することが、現在のところ一番効果が期待できる。

そこでは、怒りのコントロールの方法を学ばせたり、ゆがんだ認知を適切な認知に置き換える訓練をしたりする。こうした治療によって、危険性は相当程度抑制できるだろう。

 

われわれの日常に襲いかかる卑劣な危険運転を放置することはできない。これには断固とした処罰が必要であることは言うまでもない。

しかしその一方で、ネット上に加害者の個人情報を晒したり、執拗に罵詈雑言を浴びせたりすることは、控えるべきである。なかには、まったくの別人が「加害者の息子」を名乗って、被害者を誹謗するような動画もアップされていた。これなどは、単に注目を集めたいだけの卑劣な「反社会的」行動である。

このように事件への怒りから、あるいは事件に便乗して、軽率な行動を取ることは、加害者と同じ問題性を有していると言われても仕方がない。それは正義でも何でもない。

悲惨な事件を防ぐには、冷静で科学的な知見に導かれた対処こそが一番有効であることを、われわれは肝に銘じておく必要があるだろう。

【参考文献】
1 Raine A (2013) The Anatomy of Violence.
2 Johnsotn JE (2018) Psychology Today.
3 Sümer N et al. (2019) 10th Inttenational Driving Symposium.
4 Møller M et al. (2018) Accident Anal Prev.
5 Stephens AN et al (2016) Transp Res.