「本物の聖地」化した京アニの舞台…放火事件から1ヵ月後の今を見る

もはやファンだけが集う場所ではない
岡本 健 プロフィール

怒りと悲しみに満ちた事件現場

このように、「京アニ」は私にとって実に身近で大切な存在だった。そのため、とても冷静ではいられなかったのである。とはいえ仕事はある。大学で授業をせねばならない。学生はよく見ているもので、いつも通りに振る舞っていたつもりが、講義の受講生から「先生、大丈夫ですか?」と声をかけられてしまった。そんな精神状態だったのである。

ただ、筆者への取材依頼の多くは「京都アニメーションがアニメ産業や聖地巡礼に果たした役割」という内容だった。これはもう、ここで京アニの価値をしっかり伝えることによって、これまでの恩返しをするしかないと思い、連日取材に答えてきた。

 

ここで意外だったのが、京都アニメーションや京アニ作品の価値を論じる際に、「聖地巡礼」が引っ張り出されてきたことだった。

確かに、京都アニメーションは、事件前の段階では一般の人々にはほとんど知られていなかっただろう。マスメディア的には、読者に伝わりやすいように、よりわかりやすい「何か」とつなげて説明する必要がある。そこに「聖地巡礼」がはまっていることに驚いた。おそらく新海誠監督の『君の名は。』(2016年)の大ヒットと、その聖地巡礼によって、多くの人々に認知されていると判断したのだろう。

前期授業が終了したため、事件現場に赴いた。見たくはないが、見ておかねばならない。平日の昼過ぎだったが、報道陣に交じって一般の方も訪れていた。マスメディア関係者の中にも静かに手を合わせている人がいた。

京阪六地蔵駅近くに設置された献花台/筆者撮影

とてもではないが、長くその場にいられる空気ではなかった。事件現場は悲しみや怒りの静寂で満ち溢れているように感じた。京阪六地蔵駅の近くに設置された献花台には、たくさんの花やお供え物、スケッチブックなどが置かれていた。こちらにも、私は長く留まることができなかった。