閑静な住宅街の中に溶け込むように立っているベージュの建物。しかしその周りをぐるりと取り囲む何台もの青いワゴン車が、その建物が一般家庭のものではないことを物語る。
そこに一歩足を踏み入れると、玄関先でノートパソコンを開く者や、階段に座り込んで電話で話し込む者、すれ違いざまにばたばたと音を立てて走り去っていく者の姿が見られた。
ここは、板橋区で在宅医療に取り組むやまと診療所だ。「自宅で自分らしく死ねる。そういう世の中をつくる。」を理念に掲げる安井佑院長のもとで、およそ100名の医師やスタッフが働く。
その中の一人、「認定PA(Physician Assistant)」として勤務する木村圭祐氏に、お話を伺った。
取材・文/大澤美恵、撮影/白井智
もともと小中高とサッカー部だったことから、スポーツと栄養に興味を持ち、高校卒業後は栄養士の資格を取るために専門学校に進学しました。4年生の頃、たまたま共通の知人を介して安井院長と知り合ったことがきっかけで、かばん持ちのアルバイトを週1でするようになったのがそもそもの始まりです。
専門学校を卒業後、そのまま、やまと診療所にアシスタントとして就職しました。このアシスタントがのちに「PA(Physician Assistant)」と呼ばれるポジションになります。
PAとは、患者さんやそのご家族に寄り添って、医師や訪問看護師、ケアマネージャーなど関係各所とさまざまな調整を行う、新しい形の医療従事者のことです。
やまと診療所への就職を決めた理由は2つあります。
ひとつは、患者さんの役に立てることです。PAは医療行為ができないので、直接僕が治療をするわけではないのですが、間接的にでも役に立てていると思えて、やりがいを感じました。
もうひとつは、安井院長の人柄です。当時はまだ今の法人の理念が言語化されていない頃でしたが、安井院長は「自宅で自分らしく死ねる」世の中を作ろうと、本気で取り組まれていました。その姿勢に魅かれ、卒業後も「この人についていこう」と思えたのです。
患者さんが自分らしい最期を迎えられるには「3つのポイント」があると言われているのですが、PAはまさにこの3つを支援する役割を担っています。
1つめは「診療」です。
先程お話した通り、PAは医療行為ができないのですが、その代わり患者さんのバイタル測定(体温・血圧・血中酸素濃度の測定)や、医療器具の準備、カルテへの記録を行います。そうして、先生が診察や処置をしやすいようにサポートするのが僕たちPAの役割です。
2つめは「意思決定支援」です。
患者さんやそのご家族が「どうしたいか」を日々のコミュニケーションから探り、「こうしたい」と決断するのをお手伝いしています。たとえば、口から水分を取れなくなっている状態の患者さんに点滴をするかどうかを決めるときには、点滴をするメリット・デメリットを伝えた上で、どうするのがベストかをご家族の方と一緒に考えます。そういうこともPAの仕事です。