大学無償化政策に透ける、エリート大卒層の「上から目線」

「大卒至上主義」の押し付けでは?
吉川 徹 プロフィール

非大卒に対する「棄民政策」

ところが安倍政権は、新制度を施行することで、結果的にかれらに対して「大学に進学することこそが、希望を実現する唯一の道である。大卒の人生を進む若者は国が税金を割り振って支援するが、その他の道を進む君たちのような若者には、特段の支援はしない」というメッセージを暗に発してしまっているように見える。

レッグスたちは、同世代のだれかの大学学費の財源となる消費税を払うたび、「棄民政策」とさえいうべき、この政府の仕打ちを想うことだろう。

 

では、この高校からの大学進学の実態はどうか。明確な受験体制をとらない職業高校の場合は、センター試験を受けて国公立大学へ、というコースをとる生徒はほとんどいない。

大学を目指す場合、私立大学の文系学部に進学しなければならない。しかし、地元にはそうした大学がないので、これは都市部への進学流出ということになる。

そのため四年制の大卒学歴を得るには、一人につき800万円前後の費用がかかる。地元に残って保育士や看護師などとして20歳前後から働くことを基準とすれば、これに加えて逸失所得がさらに500~1000万円生じる計算になる。

よって、県立B商業高校の3年生は、自分への余分な投資額をほぼゼロに抑えて、地元でしっかりした職を得て、20歳前後で稼得力のある社会人になるか、1500万円ほどの損失を覚悟で都会の私立大学に進学するかの選択を迫られる。

しかも前者には、かれらに「金の卵」として目をかける地元から、働き場所と居場所が用意されるが、後者の人生には、4年後の就職活動、その後のキャリア形成と、可能性(チャンス)とともに不確定性(リスク)が伴う。そしてその選択の結果が、先に示した「短大・大学進学が約3割」というこの高校の過年度進学実績なのだ。

もっとも、この高校の生徒たちは、入学時点で「地元就職か、大学進学か」という進路をおおよそ決めており、その後の進路変更はあまりないという。

ある教諭は「家庭のお金の問題で、高校卒業したら働いてくれんかな、と親に言われているような子は地元就職する。大学に行くのはかなりお金のある層だ」と話す。

私は昨年、この県の隣県で高校3年生を対象に大規模な調査をしたのだが、どこの高校でもきょうだい数の平均値が2人を超えていることに驚かされた。通常2~3人いる子どもたちの、それぞれの大学進学にかかわる1500万円の支出・逸失が苦にならない世帯は、今回の支援制度で政府がターゲットとしている所得層からは外れるだろう。しかも驚いたことに、「成績の良い子は就職。むしろあまり成績が良くない子が大学に行く」という。

では、「大学無償化」政策はこの現状を変えることができるのか? 今年度の3年生の進路動向を聞いてみた。

結論から言えば、今年4月以降に就職から大学進学への進路変更をしたのは、約200名のうち、わずか3名ほどだという。これは毎年みられる動きであり、新支援制度の導入後も、昨年までと何も変わりはない。たかだか300万円程度の学費支援が提示されても、その倍以上の額を自己負担しなければならない現状では、大きなインパクトは得られないということらしい。

教員は保護者に対して、国の学費支援の制度が拡充されたことを説明しているが、あまり理解が得られていないので、進学先が最終的に決まってから、あらためて説明をする予定だという。

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