大学無償化政策に透ける、エリート大卒層の「上から目線」

「大卒至上主義」の押し付けでは?
吉川 徹 プロフィール

「意欲がないから地元に残る」のではない

「大学無償化」政策は、高校の進路指導の現場ではどのように受け止められているのだろうか。ある西日本の県立商業高校で、このことを校長、教頭、進路指導部長に聞いてみた。

時期は3年生の進路が決まる7月中旬である。この高校は一学年の定員がおおよそ200名、卒業生の進路は就職4割弱、専門学校約3割、短大・大学が約3割だ。「学歴分断社会」日本の渦中にあるのは、こうした中規模の進路多様校だ。

この高校には、地方県の公立職業高校に特有のいくつかの進路特性がある。第一は、就職者の大半が地元に残るということである。

 

進路指導部によると「バブル以後は、県内に人材を供給する高校になっている。この数年は売り手市場なので、就職先は希望した地元企業にほぼ確実に決まる」とのことだ。県外からも求人票が来るが、実家を出ると生活費がかさむため、生徒たちには敬遠されがちだ。

高卒後に地元で人生を歩むレッグスたちについて、「地元にこもる若者」という言い方があるが、かれらは決して無気力だから都会に出ないのではない。むしろ、その人生設計は地に足のついた堅実で合理的なものだといえる。

第二は、専門学校進学者の半数以上が、地元の医療系の専門学校に進む女子であるということだ。

彼女たちはほぼ全員が専門学校卒業後に、地元の医療機関に専門職として就職していく。この進路には、専門職人材を求める県や病院からの学費補助や地元医療機関への就職誘導がある。これは、形の上では学費貸与だが、地元で看護師などとして5年ほど働けば返還免除になる。

つまり、専門職の資格取得は実質無償になっているということだ。誤解のないように言っておくが、この支援策は県や地元の総合病院が行っているもので、国は関わっていない。

「大学無償化」との違いは、「出口」に雇用先が待ち構えていることだ。学生個人の修学支援をすること以上に、地域に必要な医療系専門職の人材確保が目的となっている。短大進学する女子の大半も同様に、保育士資格などを取得して地元で就職することを念頭においていて、やはり確実な雇用先がある。

結果的に、この高校は生徒の半数以上を地元に定着させている。校長は「全国どこでもそうだが、伝統のある県立商業高校は、優秀な人材を地域に供給することで、地元経済を支えている」という。私はこうした若者たちこそが、消滅すら危惧される日本の地方を支える、現代の「金の卵」だと思う。

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