日本は「対岸の火事」ではない
このように、労働分野での「人権」意識が2010年代前半から広まる中、日本企業の反応は鈍かった。特に、「労働人権問題は発展途上国の話」として、対岸の火事のようなもので、人権という言葉が浸透していかなかった。ラナ・プラザ崩落事故ですら、日本ではほとんど存在すら知られていない。
また、法人単位での「法的責任」の考え方が根強い日本では、取引先や下請生産工場での「人権侵害」は、「ウチの問題ではなく、あくまでヨソの問題であって、自分たちには関係ない」という概念が強いことも、対策が遅れている要因となっている。
例えば、2018年12月。中国の新疆ウイグル自治区で、綿生産工場での強制労働が明るみに出た。それに伴い、人権NGOが、同地域で生産された綿を調達しているアパレル大手として、アディダス、H&Mなどを特定し、状況説明の回答を迫った。
その結果、8月6日までに、アディダスやH&Mなどはすでにサプライヤーへの調査に乗り出しており、さらに2次サプライヤーにまで調査対象を拡大している姿勢も示した。
じつは、その中には日本の大手企業も1社含まれている。いまや、企業の対応には、自社だけでなく、サプライヤーや2次サプライヤーの労働状況にまで目を光らせたリスクマネジメントが必要となってきている。
この動きに呼応するように、投資家が取り入れつつある「ESG投資」の動きでも、この労働人権問題は大きく扱われている。
社会(ソーシャル)を示す「S」の分野では、自社の労働環境だけでなく、サプライチェーン全体での労働環境に対し適切なリスクマネジメントができているかで、企業が評価され、その評価スコアを投資家が活用するようになった。
リスクマネジメントを徹底するためには、方針を作るだけでなく、取引先への監査も要求されるようになってきた。
今回のNHKの番組では、これまで日本企業が「問題なし」としてきた日本国内の取引先でも深刻な労働問題が発生していることが明確となった。厚生労働省の調査では、2018年に外国人技能実習生を受け入れている7割の事業者(4,226社)が、労働法違反を犯していることもわかっている。
今後、労働人口が激減していく日本では、外国人労働者の受け入れがなければ、国の経済が回らなくなる。人権侵害が横行しているような国には、そのうち門戸を開いても、有能な外国人労働者が集まらなくなるだろう。