SDGsが世界で注目を集める中、サステナブルライフにつながる日本の活動を紹介する連載。今回は、酪農の未来と地域活性、ディーセントワーク推進を目指す〈バターのいとこ〉をご紹介します。

みんなが幸せになるための
可能性に果敢にトライ

最近話題の「バターのいとこ」というユニークな名前の焼き菓子を知っているだろうか。ミルクジャムを挟んだゴーフル(フランスの郷土菓子)で、一度食べるとクセになるおいしさ。この銘菓を生み出したのは、栃木県黒磯でマルシェ、ダイニング、ゲストハウスという複合施設チャウスの代表を務める宮本吾一さんと、那須でジャージー牛を放牧する森林ノ牧場代表の山川将弘さん。

木を薪や炭にし、落ち葉や下草を堆肥などにすることで多様な植生が保たれているのが里山のあるべき姿。しかし現在、日本の森林の多くは放置され、バランスが崩れている。そこで、下草を牛に食べさせて森林の管理を兼ねるという森林放牧を始めたのだが、東日本大震災の原発事故で、放牧ができなくなってしまった。土を除染するために一部の森を切り開き、草原となった場所に新たに木の苗を植え、一から森を作ろうと試みている。

実は、牧場が牛乳を生産するだけでなく、牛乳を使った製品を製造・販売することは珍しい。というのも、牛乳は国が定める指定団体が酪農家から集め、乳業メーカーに届けて販売するというルートが主だから。補給金が出て、供給が安定するというメリットはあるものの、どこでどんなふうに作られた牛乳なのかということは二の次になってしまう。だからジャージー牛を放牧し、牛乳は低温殺菌で加工するというこだわりを持っている森林ノ牧場は、指定団体を通さず、生産から販売までをすべて自分たちで行なっている。

特別な価値のある商品を作り、指定団体を通さず独自に販売している森林ノ牧場。

ところが、バターを作るとなると、小規模な牧場には負担が大きくなってくる。なぜなら、バターは牛乳から約4%しかとれず、残りの90%の無脂肪乳にはあまり価値がないとされてしまうから。

山川さんに相談された宮本さんは、黒磯に魅力的な土産品を作りたいと思っていたこともあり、その無脂肪乳を利用したお菓子を作ろうと考えた。そこで友人のパティシエ、後藤裕一さんに相談し、無脂肪乳で作ったミルクジャムをゴーフル生地に挟むというレシピを考案してもらう。できたゴーフルは瞬く間に人気商品となり、生産が追いつかずに売り切れ続出!

製造工房では、個々の能力を最大限に発揮できるよう、一人一人の適性や能力に合わせて仕事を割り振っている。トライ&エラーを繰り返し、力がついていく。

しかし心配はご無用。製品化と同時に作り始めていた直売所を兼ねた製造工房が完成したため、製造が軌道にのった今、品切れはほぼ解消している。この製造工房は、障害や難病などのある人の就労支援を行う施設でもある。「バターのいとこ」が生み出すポジティブなエネルギーの循環に、障害や難病のある人たちも加わってほしい。そんな思いを込めてトライした。

「みんなが幸せに、って偽善っぽく聞こえますよね(笑)。でもやってみたら、予想以上によかった。例えば、障害のある人たちのために丁寧に作業の説明をすると、結果的にわかりやすくなるから、全体の生産力も上がるんです」と、製造所の代表を務める足立康成さん。

森林ノ牧場で育てているのはジャージー牛だが、〈バターのいとこ〉のパッケージに描かれているのは日本に多いホルスタイン。「バターを作りたいと思う酪農家が増えたらいいな」という気持ちを表現。

現在、「バターのいとこ」の売れ行きは絶好調。おかげで森林ノ牧場は安定してバターを作り続けられ、設備とノウハウを活かして、近隣の牧場のバター作りも請け負っている。

「生産者や気候風土によって、バターも味が変わる。いわばクラフトバターを作ることで、酪農家は消費者とつながることができる。質や個性への意識が高まるから、“考える酪農家”が増える。未来の酪農はもっと面白くなると思うんです」と山川さん。
それにしても、関係者たちが机上の空論ではなく、現場で考え、思いついたアイデアを実現していく姿はなんと軽やかなことか。宮本さんは言う。

「難しいことは抜きにして、甘いものを食べると幸せになりますよね。おいしいねって食べたものが、実はなんだか世の中にイイコトみたいって知れば、きっと気持ちがいい。そのうちに、利益優先じゃない考え方が広まっていったらいいなあ」。

バターのいとこ(直売所)
栃木県那須郡那須町高久乙2905-25
☎0287-62-2100
営業時間:10:00~16:00
定休日:不定
butternoitoko.com
ほかにチャウスや森林ノ牧場でも販売している。

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Design:Kosuke Shono Photo:Koichi Tanoue Text:Shiori Fujii