みなさんは「二等辺三角形の底角定理」(あるいは、たんに「底角定理」)をご記憶だろうか? 中学生時代に数学で学習したはずだ。
ただこれだけのことだ。「底角定理」という名前は覚えていなかったかもしれないが、その内容は「常識」として知っていたのではないだろうか。
では、この常識は正しいだろうか? もちろん、疑いの余地なく正しい。だって、中学2年生が持たされる数学の教科書にそう書いてある。
とはいえ、教科書に書いてあるから正しいとか、みんながそう言っているから正しい、と考えるのはいやだ、という人もいるだろう。本当に底角定理が正しいことを納得したい、という人はもうすこしお付き合いください。
こんな方法で確かめるのはどうだろう? 二等辺三角形を描いてみて、分度器で底角の大きさを測ってくらべてみる。測った結果、2つの底角の大きさが等しければ、底角定理は正しい。
──と思いたいところだが、ちょっと待ってほしい。二等辺三角形はあなたが描いたものだけではなく、無限のバリエーションが存在する。実際に測ってみるという方法では、あなたが描いた二等辺三角形で底角が等しいことは確認できても、「すべての」二等辺三角形で底角定理が正しいことを示したことにはならない。無限に存在する二等辺三角形の底角を測って比較し尽くすなど、人間には(いや計算機にだって)不可能だ。
というわけで、この方法は忘れてしまおう。きっと、もっといい確かめ方があるはずだ。
ここで、中学数学で学習した大事な言葉をもうひとつ思い出してほしい。「証明」というやつだ。証明とはなにかというと、
だ。公理から出発して、正しい論理を積み重ねていくことで新しい事実に到達する。この証明というプロセスは、数学において非常に重要である。
数学では、あることがらが「疑いの余地なく正しい」とされるには、「証明」を経る必要がある。底角定理はどうやら正しいらしいので、すでに証明されているにちがいない。おっと、この証明も中学数学の教科書に書いてある。
というわけで、中学校で学習しているはずの底角定理の証明を、ここで復習しよう。
AB=ACである△ABCを考える(図2)。∠Bと∠Cが等しいことを、証明したい。
2つの角が等しいことを示したいときの常套手段は、「合同」だ。合同な図形の対応する角の大きさや辺の長さは等しい。今回もこの性質を使おう。つまり、∠Bと∠Cが合同な図形の対応する角であることを示せば、∠B=∠Cといえる。
しかし、与えられている図形は△ABCひとつだけ。このままでは合同を使えない。
図形がひとつしかないなら、2つにすればいいじゃない。そう、この図に1本直線を引くだけで、2つの合同な三角形が現れる。引くべき直線は、図3のような頂角(∠A)の二等分線(AD)だ。
ところで、三角形の合同条件をご記憶だろうか? これも中学校で学習したはずだ。せっかくなので、復習しておこう。