「戦場で死んだ、普通の若者を描く」いまマンガ界が戦争に注目する理由

2つの話題作を特別公開

戦後74年を迎え、ますます戦争の記憶が薄れゆく日本。そんな中、これまで光が当たらなかった戦争のリアルを描くコミックが話題を呼んでいる。『不死身の特攻兵 生キトシ生ケル者タチヘ』(週刊ヤングマガジンで連載中)と、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(ヤングアニマルで連載中)だ。

終戦記念日にあわせて、『不死身の特攻兵』の原作者である鴻上尚史さんと、『ペリリュー』作者の武田一義さんの、出版社もメディアも超えた特別対談が実現。ふたりが作品に込める、現代日本人へのメッセージとは――。

(構成/伊藤達也、撮影/浜村達也、協力/平和祈念展示資料館)

武田さん(左)と鴻上さん

戦場で過ごした若者の「生身」を描く

――まず、この2作品が生まれたきっかけを伺えますか?

鴻上 僕はもう、偶然「9回特攻に出撃して、9回帰ってきた人がいる」ことを知ったのがすべての始まり。

『特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た』(朝日文庫)という本を読んで存在を知って驚きました。9回特攻に出て9回帰ってくるって、どういうことだろう、話を聞いてみたいと思ったんです。

武田 それが主人公の佐々木友次さんですね。陸軍の特攻部隊「万朶隊(ばんだたい)」のパイロットだった。

鴻上 ええ。でも最初から自分で佐々木さんを見つけよう、取材しようと積極的に動いたわけじゃなかったんです。

 

毎年夏が近づくと、知己のテレビプロデューサーに戦争もののネタがないか尋ねられるんだけど、4年くらい毎年「9回特攻に行って9回帰ってきた人がいるんだけど、企画にならない?」と提案していた。しかし、なかなかプロデューサーは乗ってこなかった。

そんな中、2015年の春に一緒に仕事をしていた上松プロデューサーと話したら俄然興味をしてきて。5月になったある日、上松さんから「佐々木さん、生きていますよ」と言われたときは、テレ朝のロビーで「えーっ!」と絶叫しました。

武田 僕の場合は、自発的に戦争という題材に向き合おうとしたわけじゃなかったんです。漫画のテーマになったペリリュー島での激戦のことも、まったく知らなかった。

きっかけは今から4年前、戦後70周年記念でヤングアニマルが戦争に関わる漫画の読み切りムックを作る、という企画があって、そこに「読み切りを1本描きませんか」とお話を頂いたこと。

その時に、漫画家として戦争を題材に作品を描きたい気持ちが自分の中にあったことを再確認して、せっかくだからこのタイミングでやってみようと。

ちょうどその頃に、当時の天皇皇后両陛下が、ペリリュー島に慰霊訪問されるというニュースがあったんです。

鴻上 2015年4月のパラオ訪問だ。その際、激戦の地であるペリリュー島へも戦没者慰霊のため訪れた。

武田 はい。さらに、ムック全体の監修をされた平塚柾緒さん(太平洋戦争研究会)が、若い頃からライフワークとして調査してらしたのが、ペリリュー島だったんですよ。

平塚さんから、今はもうご存命ではない生還者の方の肉声など、取材されてきた内容を伺うと、戦争に従軍した方々に僕が持っている印象というか、いわばステレオタイプ的な日本軍の兵士像とは違う、もっと人間臭い姿が浮かび上がってきた。

戦争に勝ったとか負けたとか、作戦が成功した失敗したじゃない、戦場で20歳そこそこの大事な若い時代を過ごした人たちの「生身」に近いものを描きたいと思ったんですよね。

鴻上 なるほど。それは『不死身の特攻兵』の佐々木友次さんも同じでしたね。勇壮とか悲壮とか、ありがちな特攻兵のイメージとは違う、ただ一人の若い、飛行機乗りの生々しい物語。従来のイメージと違いすぎたから、テレビも企画としてなかなか食いつかなかったのかな(苦笑)。