2019.08.15
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【結果が出るのは30年後】小笠原諸島・父島で行うウミガメ保全活動

「捕獲と保全」が共生する世界

捕獲と保全を同時に行う

父島にウミガメ食をもたらしたハワイでは現在、ウミガメに触ると500ドルの罰金などの厳しい規制があり、食用は一切禁止されている。しかし、小笠原諸島では現在でも年間135頭(うち父島は50頭)の捕獲が東京都によって許可されている(ただし、産卵期の6月~8月は禁漁期とされ、体長75cm以下の個体の捕獲は禁止されている)。

「保護活動もさまざまです。禁漁区と保護区など明確な線を引く方法もありますが、ここ父島では島の伝統や食文化を守るという意味で、捕獲と保全を同時に行い、互いに協力しているのが特徴です。3年前からは、島の漁師さんが捕獲した雌のウミガメが受精卵を持っていた場合、その卵を海洋センターで人工孵化し育成する取り組みも開始しました。漁で捕獲したカメの胃の内容物などを提供してもらい調査・分析することで、生態や海洋汚染の影響を調べる研究に生かしてもいます」(橋本氏)。

放流する稚ガメの鱗板を記録する橋本氏

小笠原村役場でウミガメ保護を担当する安藤氏は語る。

「父島のウミガメ保全事業は、世界的に見ても珍しい好例です。長年の保護活動により産卵巣数は右肩上がり。同時に、伝統的な食文化としてのウミガメ食も保全されています。今年、新天皇即位の大嘗祭で供える米を育てる地方を決めるための儀式で亀卜のために提供された甲羅も、父島のアオウミガメのものです。通常、甲羅は廃棄するのですが、今回はそれをご提供しました。決められた頭数制限内で捕獲したものです」(*亀トは、古代中国から奈良時代に伝来した亀の甲羅を使用した占い)

小笠原諸島でのアオウミガメの産卵巣数の変遷(ELNA提供)
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世界遺産に登録されたこともあり、父島には年間3万人ほどの観光客が訪れる。長寿のシンボルともされるウミガメを一目見たいという観光客は多い。しかし、産卵のため上陸した母ガメは、人がそばに近づくと逃げてしまう。浜で産卵できずに海へと戻らざるをえなかった母ガメは、海中で卵を捨ててしまうそうだ。

可愛いから見たい。でもウミガメの習性を知らずに近寄ることで、子ガメが生まれる機会を奪ってしまう――。だからこそ、まずは「知ってもらうこと」だと橋本さんは語る。

産卵シーズン中、ELNAのスタッフは毎夜2時頃まで大村海岸をパトロールする。「浜を訪れる人に母ガメの産卵を邪魔をしないように声をかけ、無事産卵にいたれば背後から近づくことができるので、間近で見学を案内します。すべてを禁止して『この砂浜は入れません』と線を引くと、誰かしらルールを破る人やフラストレーションを感じる人が出てきてしまう。一緒に共存する施策を考える方が現実的だと思っています」

人間の関与により圧迫されたウミガメの絶滅をふせぐためには、人間の理解こそが必要なのだ。

絶滅危惧種であるウミガメ、島民、島の伝統文化、観光客と保護団体。どれかに犠牲や我慢を強いるのではなく、どれも尊重し両立させようというトライアルが、ここ父島では続いている。