米中冷戦の最終段階「軍事衝突」はいつ、どこで勃発するか

中国は「毛沢東式持久戦論」で迎え撃つ
近藤 大介 プロフィール

習近平政権は、「中国近現代史の起点」を、1840年のアヘン戦争に置いている。中国は古代から一貫して、世界最強の大国だったが、アヘン戦争で大敗し、不平等条約を結ばされて以降は、「屈辱の100年」を迎えた。その後の中国現代史は、そこから「失地回復」していく過程だと捉えているのだ。

失地回復の第1段階として、1949年に毛沢東主席が中国統一を果たし、日本などの外国勢力を排除した。第2段階として、1997年に故・鄧小平元中央軍事委員会主席の尽力で、アヘン戦争で取られた香港をイギリスから返還させ、その2年後にはマカオをポルトガルから返還させた。そして次の第3段階が、習近平主席がアメリカの圧力を跳ねのけて、台湾を統一することだというわけだ。

そのため中国から見れば、いま自国の周辺で起こっている多くの事象は、「アメリカが中国による台湾統一を阻止すべく起こしているもの」と映っている。中国の過度の「被害妄想」「陰謀史観」と思えなくもないが、ともかく習近平政権はそう考えている。

例えば、INF(中距離核戦略)全廃条約の破棄、長引く香港のデモ、台湾の蔡英文政権の復権、北朝鮮の短距離ミサイル発射といったことだ。どれも大きなテーマだが、紙幅の都合上、日本では「他人事」のように思われているINF条約破棄について述べたい。

 

日韓の対立はアメリカの陰謀なのか

INF条約は、私はいまでも締結時の映像を鮮明に記憶しているが、半世紀近くに及んだ冷戦を終結させる重要な一歩だった。

1987年12月8日(奇しくも太平洋戦争開戦日だった)に、ソ連共産党のミハエル・ゴルバチョフ書記長がワシントンを訪問し、ロナルド・レーガン米大統領とがっちり握手を交わして調印した。これによって、米ソ双方の射程500㎞から5500㎞の核ミサイル及び通常型弾道ミサイルが、すべて廃棄されることになった。1991年にソ連が崩壊して以降は、ロシアに引き継がれた。

だがトランプ大統領は、この条約を不服として、今年2月1日に、ロシアに破棄を通告。条約の取り決めにより、半年後の8月2日に破棄されたというわけである。

トランプ大統領が破棄した理由は、「ロシアがINF条約に背いて、密かに中距離弾道ミサイルを開発している」ということだった。だが実際の理由は、米ロが「自粛」している間に、台頭するもう一つの大国、すなわち中国が、野放しに中距離核ミサイルを量産し始めたからだ。

中国の台頭を食い止めるには、INF条約を一度破棄して、米中ロの3大国で再度、「新INF条約」を作り直さねばならないというのが、トランプ政権の主張である。

だが中国からすれば、新INF条約を結ぶ気など、さらさらない。かつINF条約撤廃後のアメリカの動きを、最大限に警戒している。

アメリカでは、7月23日、マーク・エスパー新国防長官が就任した。エスパー長官は就任早々、8月2日から9日まで、東アジアを歴訪した。オーストラリア、ニュージーランド、日本、モンゴル、韓国の5ヵ国である。

8月3日、ニューヨークタイムズ紙が、スクープ記事を報じた。「ペンダゴン(米国防総省)のチーフがアメリカのミサイルのアジア配備に意欲 マーク・エスパーがオーストラリアへの途上で、これまで条約によって限定されていた兵器の配備を『数ヵ月内に』見たいと発言」と題した記事だ。

記事を読むと、エスパー新長官が、INF条約のタガが外れたため、一刻も早く東アジアに中距離ミサイルを地上配備したいとの意向を示したという内容だ。