「乙武義足プロジェクト」が進行している。膝がない、腕がない、歩いた経験がない――乙武洋匡氏はそんな身体の「三重苦」と闘いながら、歩行練習に励んでいる。

プロジェクトに「身体のプロ」内田直生氏が加わった。クラウドファンディングで応援を呼び掛けると、2000人以上の支援者から2000万円を超える支援が集まった。

その支援者の前で初めて見せる歩行練習。そこで乙武氏は、支援者の前で義足歩行の練習を披露することになったのだが……。

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順調に進むウッチーとの練習

順調だった。ストレッチと歩行練習を繰り返すことで、少しずつ股関節の可動域が広狩り、Lの字だった身体もわずかながらIの字に近づいてきた。

片足立ちの筋トレは、左足でも60秒を超えられるようになった。おかげで直立の姿勢がよくなり、左足に体重を乗せる感覚が前よりもつかめてきた。

倒れることもなくなってきた。これまでは重心が前に傾き、身体のバランスを崩すことが多くあったが、ウッチーの指導によってそれもなくなってきた。現状の課題は、太腿に疲労が蓄積し、体力的に続けられなくなって歩けなくなってしまうということだった。

3月に入ると、練習メニューに上半身のストレッチが加えられた。ウッチーによると「静的歩行」から「動的歩行」へとステップアップするためだそうだ。

それまでの私の歩き方は、「右足を前に出す→右足を接地させる→右足に荷重する→左足を前に出す→……」という具合に、ひとつひとつの動作を確かめながらスローテンポで行われていた。これを「静的歩行」と言うのだが、動作のたびに筋肉に負担がかかり体力を消耗しやすい。

望ましいのは、「右足を前に出して接地させる→と同時に身体全体の重心を前に移動させる→と同時に左足を前に出す→と同時に……」というふうにアップテンポのリズムで行われる「動的歩行」だ。動的歩行なら筋力をあまり使わずに歩けるので、長い距離を歩くためには絶対にマスターしなくてはならない。

健常者なら無意識にできることを
できるようにするために

もちろん健常者なら誰もが無意識のうちに行っている歩き方だが、私にそれができない原因は、体幹の可動域の狭さにあった。そのため体重をうまく左足に乗せることができず、左足の振り出しのあとに右足に続かない。

そこで、股関節だけでなく上半身のストレッチを行なうことになった。床に座った私の背後にウッチーがまわり、苦手な左足に体重を乗せやすくなるように、体幹に刺激が与えられる。頭を左側に、上半身を右側に、身体が弓なりになるようにぐっとねじる。右肩と左肩をくねくねと交互に動かす。

骨盤を確認しながらストレッチ 撮影/森清

「左の骨盤に重心が乗っているのがわかりますか」

ウッチーの言葉に従いながら、はじめての感覚を脳に覚え込ませようとした。

歩行練習中も、上半身のくねくねとした動きを思い出しながら、全身を使って歩くことに気を遣う。すると、ごくたまにではあるが、右足がしっかりと前に出てなめらかなに歩けるときがあった。
股関節や体幹を柔軟にし、両足の動きの左右差を減らしつつ歩行の感覚を養う。地道だが、その練習メニューを繰り返すしか、私がスムーズな歩行を習得する道はなかった。