「虐殺の痕跡」を辿るルワンダのダークツーリズムと、中国人の足跡
安田峰俊・チャイナフリカを往く③『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した気鋭のノンフィクションライター・安田峰俊が、アフリカ大陸に進出する中国の実態を調査しに、「アフリカのシンガポール」と呼ばれるルワンダへと渡るルポルタージュ。第三回目は、ルワンダの「負の歴史」である虐殺の記憶をたどりながら、ルワンダ全土に広がる中国の影を追う――。
(第一回はこちらから)
中国人とのトラブル
「会社はまだ立ち上げたばかりだがね。この国に来る中国人向けのツアーを取り扱っている。いちばんの人気はゴリラを見るトレッキング・ツアーだ。参加費は安くないのだが、ルワンダだからこそできる体験だからね」
ルワンダの首都・キガリ市東部のオフィス内でそう話すのは、現地で旅行会社と電化製品販売会社を経営するアンドリュー・ガテラだ。かつて中国に留学して孔子学院の奨学金を受け取り、北京伝媒大学で修士号を取得。漢字習得のハードルがあるルワンダ人としてはかなり珍しく、中国政府の中国語国際試験HSK(漢語水平考試)の最高レベルである6級に合格している。

マウンテンゴリラのウォッチングを楽しめるのは、ルワンダ西北部のコンゴ民主共和国との国境にあるヴォルカン国立公園である(余談ながら、コンゴ側の隣接地域では最近、エボラ出血熱が流行している)。
国立公園でのトレッキング・ツアーは、ほぼ必ず1500USドル(約16万円)の参加費用が必要だ。野生のなかで暮らすゴリラに会う旅は、物見遊山気分で行くには相当ハードなのだが、それでもルワンダを訪れる中国人たちはカネに糸目を付けずに行くという。もっとも、素直に自然を愛でる人が多いのは「いいこと」である。
「ルワンダは治安がいいから、ゾウやゴリラの密猟は限定的なんだ。密猟した象牙や毛皮の売買には中国人が関わる例も多いと聞くが、(近隣国のケニアやタンザニアと比べて)こちらの面の問題はそれほど深刻じゃない」
だが、当然ながらルワンダに来る中国人と、現地の人たちとの間にトラブルが皆無というわけではない。
中国人はどんどんやってくる
ちょうど25年前の1994年4月、ルワンダでは多数派住民のフツが少数派のツチを虐殺する、凄惨なルワンダ虐殺が起きた。
虐殺には過激なツチ憎悪のイデオロギー(フツ・パワー)を持つフツ民兵インテラハムウェのみならず、特にツチを強く憎んでいなかったフツ一般市民も多数参加。従来の隣人だったツチたちを3ヶ月間で50万〜80万人(一説には100万人)も殺し続けた。内戦と虐殺の結果、はなはだしい規模の経済混乱や社会インフラの破壊、頭脳流出が発生した。
しかし内戦後、ルワンダは毎年7〜10%近いGDP成長率を叩き出す高度経済成長の時代を迎えた。結果、商機を見て取った中国人ビジネスマンが殺到し、一部には成功者も現れている(本連載第2回記事参照)。ただ、1人の成功者の影に100人も1000人も失敗者が転がっているのが中国人のビジネスだ。
「中国人はどんどんやってくるが、去る人も多い。入れ替わり立ち替わりだから、新たに来る人がこちらの習慣やタブーを知らずに失敗するんだ」
ガテラはそう言う。
「たとえばアフリカ人を蔑視するような態度を取る中国人は常にいる。ほかに問題としては、中国人はとにかくカネだけを重視する。ルワンダ人はカネ以外にも尊敬や尊重を求めるから、その点での摩擦はあるね」
「しかし、H&C社の馬暁梅さん(第2回記事参照)のようにトップダウン型の会社で成功した例もありますよ」

「個人的にああいうやり方は好きじゃないが、発展中の国では最適な方法だとは思う。特に(政治が強権的な)ルワンダには向いているだろう。ルワンダ人だって、別に独裁的な企業を望んでいるわけじゃないのだが、徐々に中国に学ぶようになっている」