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仕事なんて代わりがいるから…先輩が教えてくれた「人生のバランス」

東京マネー戦記【18】2014年冬

仕事と家庭――。責任ある年代にさしかかったサラリーマンの多くが、そのはざまでの葛藤を経験する。大手証券会社に勤める41歳の「ぼく」も例外ではなかった。そんな中、ある敏腕ファンドマネージャーの悩みに思いがけず触れて……。

証券ディーラーたちの仕事と人生を描く「東京マネー戦記」第18回。

(監修/町田哲也

 

2歳半の子の「心の変化」

2人目の子どもが生まれたのは、ぼくが41歳のときだった。

子どもは1人だけという選択肢もあったが、上の子が大きくなるにつれて考えが変わってきた。妻もぼくも小さい頃の経験から兄弟のありがたさはわかっていたし、何よりも自分の子どもがかわいかった。

問題は家の構造だった。2年前に新築した自宅には、子ども部屋をひとつしか作っていなかった。まだ先の話とはいえ、子どもが大きくなれば自分の部屋が欲しくなるに違いない。家族構成まで考えずに家を建てたのが、今になって悔やまれるようになっていた。

はじめて家に、赤ちゃんを連れて妻が帰ってきたときのことだ。2歳半の長男は、赤ちゃんをどう扱っていいのかわかりかねているようだった。お母さんに甘えようにも、知らない赤ちゃんを抱いている。

親の愛情が自分以外に注がれているのをはじめて見たショックだろうか。ベビーベッドを珍しそうに眺めるものの、自分からは近づこうとしない。自我が芽生え出す2歳児の頃に特有の反抗は、人一倍強かった。

妻が仕事で家を空けたとき、ぼくが保育園に迎えに行くと嫌がり、帰り道で「ついてこないで」と大声でわめきたてる。ベビーカーを引きながらなので、道路で暴れる長男が危なくて仕方ない。つい強くいうことが多くなってしまった。

おそらく両親の目が自分から離れていくことに対して、抵抗したい気持ちが背景にあったのではないか。かと思うと、甘えてくることもある。長男の心の変化を、これまで以上に見守っていく必要性を感じていた。

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ある経済系の雑誌から、ぼくが聞き手となって著名なマーケット参加者にインタビューする企画を依頼されたのは、この年の夏のことだった。

ゼロ金利の長期化に苦しむ投資家から、運用戦略を訊くという企画だった。証券会社の社員として接するのとは違う言葉を、ファンドマネージャーから引き出せるかもしれない。ぼくにとっても興味深い企画だった。

まず、クレジット市場で存在感のある投資家を選定する作業からはじまった。規模や実績より、戦略や得意分野がはっきりしている運用機関を選びたかった。次にその投資家のなかで、誰が適任かを選定する。運用機関内の人間関係も影響してくるので、先方に相談しながら進めることにした。

リストができあがったのが8月のことだ。月に1回程度のペースで投資家を訪問し、運用戦略からプライベートまで幅広く語ってもらう。最終的には、10人程度まで広げていくプランを持っていた。

面白いのは、投資家が思い入れのあるディールとして挙げる銘柄が、ぼくの仕事とかなりの部分で重なっていることだった。それぞれの運用担当者の人生と、ぼくの仕事との関わりを確認するようで、聞き手として自然と熱が入った。