精神医学における風邪のようなものだ、とアメリカの心理学者セリングマンが言った通り、うつ病は数ヵ月から長くとも2年以内に回復する病気です。
しかし、長年真面目に治療を受けているのにもかかわらず、なかなか治らないという人が増えているそうです。5年、10年……、それどころか20年以上治らないという超難治性の患者さんも少なくありません。
なかなか治らないのは、薬のせいではないか、という疑問が起こり、減薬・断薬を求める声が大きくなりました。現在では向精神薬の多剤処方や長期の漫然処方が保険診療の面から規制されようになっています。しかし、減薬や断薬の失敗から、かえって症状が悪化して苦しむ、という新たな問題も生じていると言います。
なぜ、一部のうつ病は治らない病気になってしまったのでしょうか?
"新型うつ病"ってなんだ?
近年、「新型うつ病」とか「現代うつ病」などといった"病名"がマスコミなどをにぎわせています。なかなか治らないうつ病の人が増えている現状から、人々の不安を掻き立てます。しかし、これらの"病名"は造語で、医学的な検証を経た医学用語ではありません。
とはいえ、近年のうつ病が、従来のうつ病とは経過が変わってきているのは事実のようです。
従来、うつ病は、病気に対する説明、休養、カウンセリング、抗うつ薬などの療法で、数ヵ月で治る病気でした。ところが、延々と薬が終わらず、病院とも縁が切れないという人が増えているのです。

実際に、従来のうつ病とは次のような違いがあがっています。
従来のうつ病の特徴
- 発病のきっかけ
- 結婚、就職、離職などのライフイベント
- 人事異動
- 転居
- 症状
- 朝の抑うつ気分(気分が落ち込んだ状態)がひどい
- 自責の念が強い
- 不眠
- 食欲不振
- 体重減少
- マイナス思考
- ひきこもり
- 治療
- 入院治療
近年のうつ病の特徴
- 発病のきっかけ
- 過労
- 職場の人間関係
- パワハラ
- 症状
- 他者を責める
- 自己評価が低い
- 意欲低下
- うたれ弱い
- やる気がない
- 個人差が大きい
- できることもあるので、症状ではなくわがままととらえられる
- 治療
- 通院治療
うつ病が治らない患者さんが増えている前提として、うつ病の患者さんじたいが増えているということがあります。うつ病の概念が広がったことが原因で、生活に支障をきたす抑うつが2週間続けば「うつ病」という診断基準になったのです。うつ病の知識が広がり受診者が増えていることも、全体の患者数を押し上げています。
抑うつが治りにくいタイプは、主に次の2つです。
- 双極性障害:抑うつで発症するけれど途中でハイになり、躁とうつを繰り返す
- 慢性うつ病:軽い抑うつが2年以上続く
治らない原因については、「発症してから治療まで時間がかかった」「うつに陥りやすい資質」「解消されないストレス要因の持続」などが従来から指摘されていましたが、こうした近年の傾向から新たな視点が着目されています。
- 患者さんの治癒へのあきらめ
- 休養の取り方
- 薬の使い方の問題
- 発達障害があって、二次的にうつ病が起きている
このうち、(4)発達障害がある場合は、その対処を優先しなければなりません。
今回は、多くの人が疑問を抱いている、(3)のうつ病における薬の問題について考えてみたいと思います。まずはうつ病が治らず引きこもりになってしまったCさんの例を見てみましょう。