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中国を為替操作国認定したトランプ政権の「次なる一手」

世界貿易の収縮は避けられないのか

米中貿易戦争は新ステージに

中国人民元相場が下落し、8月5日には1ドル=7元台となった。従来、中国当局は1ドル=7元を人民元相場の防衛ラインにしているといわれていたが、それをあっさり割り込んだのだ。

中国の通貨当局がそれに対して何のアクションもとらずに放置するような姿勢だったために、米国のトランプ大統領は、中国が輸出振興のために中国当局が意図的に為替操作を行っているとみなし、5日に米国財務省は中国を「為替操作国」に指定した。そして、それを受けて、トランプ大統領は、9月1日より、新たに中国からの輸入品約3000億ドル相当に10%の制裁関税を賦課することを表明した。

中国も黙っていなかった。報復として、中国は米国からの農産物の輸入停止を発表した。これによって、「米中貿易戦争」は新たなステージに入ったと推測される。

筆者はトランプ大統領が来年の大統領選をにらみ、中国が米国から農産物を大量に購入する代わりに米国は関税措置を段階的に緩和していくというディールを行うのではないかと考えていたので、この米中貿易戦争の激化はかなりのサプライズであった。

この米中貿易戦争は、双方にとって経済的にはデメリットばかりだが、「覇権国」を巡る闘いという意味では、引くに引けないチキンレースと化している。

そして、今後の動向だが、中国が「輸入停止」という「量的」な報復に出た点が気がかりである。これまでは、「貿易戦争」といっても、米中がお互いに高くても20~30%程度の制裁関税をかける程度で終わっていた。

 

当初、多くの経済学者が言及していたように、20~30%の関税賦課は単純に考えると、それぞれの国の販売価格の上昇につながるはずだが、ここまで両国ではインフレ率が上昇する兆候はみられない。中国の消費者物価が若干上昇しつつあるが、前年比で3%未満に過ぎない。米国に至っては逆に低下しつつある。

これは、中国サイドからみると、米国からの輸入品の多くは食品、飼料等の一次産品が多いが、これはブラジルやオーストラリア等からの代替輸入で補完していることが大きい。したがって、農産物の輸入金額は6月時点までで前年比15.1%増と昨年並みの増加率を維持している。

一方、米国サイドからみると、中国からの輸入品については人民元安によって関税負担分が相殺されていると考えられる。実際にドル建てでみた中国からの輸入物価は前年比で-1.5%と逆に米中貿易戦争が激化する中、下落基調で推移している。そして、このドル建て輸入物価の変動は人民元の対ドルレートの変動の影響が大きいことがわかる(図表1)。

だが、報復が輸入停止や輸入制限という「量」の段階に入ると、その効果はより直接的になる。

確かに、構造的に、中国から他の国への生産拠点の移転が進んでいるとはいえ、その動きは、米中貿易戦争の進行速度と比較すれば緩やかである。そのため、グローバルサプライチェーンが高度に発達している現在の国際貿易の構造では、短期間で中国の輸出品を代替する国が現れるとは考えにくく、供給が止まることで経済の大きな落ち込みが懸念される。

供給がストップすることによって需要が「強制的に」減少し、これが景気悪化を招くという構造は、出発点は全く異なるとはいえ、リーマンショックが深化するパターンと同じである。先ほどのチキンレースの例えでいえば、暗闇で崖が見えない中、お互いがヒートアップしてアクセルをさらに踏み込んだということになろう。

したがって、今後、米国が例えば中国からの輸入停止などの「量的な報復」に訴えた場合には、より悲観的な経済シナリオを想定せざるを得なくなるだろう。その意味で米国の「次なる一手」は極めて重要である。

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