母子家庭で受けた差別を
子どもに味わわせたくない

インターネットで探して頼んだ女性弁護士は、「あなた、この男、狂ってるわよ。離婚したくないって、どういうこと!」と訝しがられた。

どうしても離婚したくなかったのは、私自身が母子家庭に育ち、父親がいないことでの不利益をたくさん被ってきたからです。今は離婚なんて珍しくもないけど、あのころ、離婚家庭はクラスに私1人だけ。就職のときも結婚のときも、いろいろな場面で差別がありました。息子だけは絶対にそんな目に遭わせたくなかった」

弁護士にそう話しながら苑子さんは、元夫の女性問題が発覚して以来、初めて泣いた。

弁護士は、「そうか、なるほどね」と納得しながらも「で、あなた、どんな仕事してるの?」と聞いた。説明すると、苑子さんのホームページを開いて眺め「……仕事、がんばろっか」とだけ、言った。

「その言葉を聞いて、ああ、離婚は避けられないんだな、と思いました」

結局、離婚は成立してしまうのだが、結果的にはこの弁護士との出会いが、その後の苑子さんの人生を大きく変えた。

「丸の内に大きなオフィスを構えている先生で、その後、個人的に仲よくなりました。そうしたら、知り合う人たちが変わってきたんです。そうしたら、どんどん仕事の幅が広がっていきました」

中学生だった息子が言ったこと

それから10年ほどもたち、離婚時に中学生だった息子も社会人となった。
「男の子には男親が必要」と考えた苑子さんの計らいで、息子は時々、父親と顔を合わせている。進学する、留学する、という節目にお金を出してもらう関係だ。

元夫はその後、件の彼女と結婚するわけでもなく独り身を貫いているらしい。頑なな性格が災いしてか職場ではあまり評価されず、最近、気に染まない部署に異動になってしょんぼりしていた、と息子に聞いた。息子は父親をどう思っているのか。少なくとも成人してからは、「生きるのに不器用な人」として生温かく見守っているようだ。

「私が時々、元夫のことを『小さい男!』などと悪く言うと『そういう人もいるんだよ』とかばう一方で、『あいつ(父親)は何が楽しくて生きているんだろうね?』などと冷めた言い方もするんです」

さて、そんな息子は今春、勤めていたコンサルタント会社を辞め、母親である苑子さんの仕事を手伝い始めた。事業をもっと拡大していきたいと、親子で夢をふくらませている。

最近になって、息子は苑子さんにこう言った。

「あいつ(父親)には、むしろ感謝してる。離婚しなかったら、(弁護士の)先生にも会えなかったし、あなた(母親)の人生もまったく違ったものになってたと思うよ」

子どものために「籍」にこだわっていた苑子さんだが、この言葉を聞いて「子どものためにもこの離婚はよかったのだ」と救われた

苑子さん自身もこう思えるようになった。

「私や息子に『死ね』と言ったり、親戚中に『離婚の原因は自分ではなく妻である』と言い広めた元夫のことは、正直、5回生まれ変わっても許せません。でも、あの人のおかげで子どもをもてた離婚を言い出してくれたおかげで、弁護士に会えてそこから仕事が広がった。そこは感謝しなくちゃな、と思っています」

自身の子ども時代の体験が、籍への執着になっていた苑子さん。しかし、時代も変わっていた。結婚したことで息子が誕生し、離婚したことで生きる活力を得られた。そこに至るまでには時間がかかったが、誰もが前に歩くことができた離婚だった Photo by iStock
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