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警察の「GPS捜査」は、どれほどプライバシーを暴くのか

「場所がわかる」以上の恐ろしさ
亀石 倫子 プロフィール

次に、厚いコンクリートの壁に囲まれた場所に車がある場合の精度実験である。弁護団は大阪拘置所からショッピングセンターに移動した。逃走車は立体駐車場に入り、追跡車は外で待機する。

逃走車は立体駐車場の5階に停車した。駐車場はコンクリートの壁で囲まれていたが、各階の壁には通気と明かり取りのための空間があり、外部とつながっている。亀石が位置情報を取得すると、測位誤差の欄に「実際の位置と数百m程度」というメッセージが表示された。

地図ボタンをタップすると、地図上ではショッピングセンターの位置近辺にかろうじて丸と十字のマークがかかっていたが、色はグレーで表示されている。実際に車がある場所の近辺は特定できるが、現実の位置とは数百mの誤差があると考えられた。

 

高速で逃げても、20分で追いつける

続いて、高速で移動中の位置情報の精度実験に移る。同時に、追跡車が逃走車を目視で見失ったときでも、位置情報を取得することで再度捕捉できるかを試す実験でもあった。午後0時15分、逃走車は追跡車に行き先を告げずに移動を開始した。

逃走車の車内は、どんよりとした空気が漂っていた。体調の悪い舘のイライラが、同乗した小野と我妻に伝わったからだ。舘の体調は、時間を経るごとに悪化していた。体調面だけでなく、ずいぶん前に約束していた子どもとのお出かけもこの件でキャンセルとなり、すこぶる機嫌が悪かった。

ふだんは舘と仲のいい小野も、会話の糸口をつかみかねていた。マスクをつけていた舘は、ブツブツと悪態をついていた。後部座席にいた我妻にもブツブツ呟く声は聞こえたが、何を言っているかまでは聞き取れなかった。

逃走車が出発してから26分後の午後0時41分ごろ、位置情報の表示から、逃走車が守口ジャンクションから阪神高速に乗ったと推測された。ただし、100m程度の測位誤差があると表示された。その2分後、さらに9分後に取得した位置情報は、いずれも高速道路上にあった。

これらの情報から逃走車は高速道路を京都方面に向かっている可能性が高いと判断し、追跡車は移動を開始した。逃走車と同様に守口ジャンクションから高速道路に入ろうとしたが、運転する西村が高速入口を見落とし、入ることができなかった。

「どうする? 戻る?」

亀石の問いかけに対し、西村は当初の目的を強引に変更することに決めた。

「同じルートを後追いするのではなく、まったく違うルートで追いかけても、GPSが設置されている車に追いつけることを証明しましょう

そのまま一般道を京都方面へ走り、守口から摂津、吹田と車を走らせる。この段階で亀石が位置情報を取得すると、逃走車は京都南インターチェンジで高速道路を降り、国道1号線を北に向かって走る様子が確認された。

吹田インターチェンジから高速道路に乗った追跡車は、午後1時34分に京都南インターチェンジを降り、逃走車と同じ国道1号線を北上した。ふたたび位置情報を取得すると、逃走車は京都市立病院の近辺にいると推測された。17分後に位置情報を再度取得。同じ位置から動いていない

「病院に停まってる」

追跡車は京都市立病院の南駐車場に急いだ。駐車場内を探す。すぐに見つかった。わずか20分で追いついたことになる。

「おせーよ! 何分待たせるんだよ!」

イラつく舘を放ったまま、追跡車のメンバーはあらためてGPSの機能を再認識した。