# ジェンダー

男の子はいかにして「男らしさの檻」に閉じ込められるのか

自由は実は自由じゃない
北村 紗衣 プロフィール

『ボーイズ』は、男の子が男らしさの檻から出られるようにはどうすればいいのか、いろいろな事例をあげて解説している。この本は男であることの全てが悪いと言っているわけではない。終章では「若い男性たちがより包括的でのびのびとしたマスキュリニティを選び取る」(p. 323)手助けが必要だと書かれている。

自分が男であることをのびのび楽しむのは別に悪いことではないし、伝統的に男らしいとされている特質で、いわゆる暴力的な「有毒な男らしさ」ではない、誰にとっても美徳と思えるような特質はいくつもある。

大事なのは、男の子が均質な集団ではなく個人差がとても大きいことを認識しつつ、男性であっても「優しさや慈しみの気持ち、豊かな表現力や傷つきやすさを見せること」(p. 327)は全く問題がないのだと示すことだ。ギーザはそうするためにはどうすればいいのか、いろいろな実践例をあげて説明し、男の子を育てる親たちを励ましている。

 

男の子の不利益

個人的なことで恐縮だが、私はこの本を読んで、女で良かった…と思った。というのも、私はこの本で指摘されている伝統的かつ有毒な男性性をたっぷり備えていると思われる女性だからだ。私は非常に人間が嫌いで、所謂コミュニケーション力が欠如している。他人の感情を読み取ったり気遣ったりするのは苦手である。そのわりにケンカが大好きで、人と争うことが全く苦にならない。

もし男の子として育てられ、この本で述べられているような伝統的な男らしさを吸い上げて大人になっていたとしたら、たぶん所謂アンガーマネジメント(怒りのコントロール)の問題を抱えるようになっていただろう。音楽の才能がないレッド・ツェッペリンみたいになっていたかもしれない(考えるだに悲惨だ)。今、比較的健康に暮らせているのは、たぶん女の子として育てられたおかげだ。

女の子として育てられた人間にはいろいろ社会的に不利なことも起こるが、一方で暴力的、支配的であることが良いという価値観を植え付けられて大人になる機会はめったにない。穏やかさとか優しさが美徳だということを教えられる。

『ボーイズ』に書かれていることをよく考えると、男の子はこういう美徳を教育によって身につけるチャンスを奪われがちだということがわかる。これは男の子の教育にとって大きな損失だし、おそらく精神の安定にも悪い影響が及ぶ。男らしさに関する固定観念のせいで、男の子は相当な不利益を被っている。

男らしさを解体し、男の子の育て方を考え直すことは、男の子の利益につながるだろう。より自由で楽しく、精神的に安定した人生を過ごすきっかけになるかもしれないからだ。