ベビーカーの女性はなぜ謝ったのか

それは一時帰国中の平日の昼間、神奈川県のとある駅のホームで電車を待っている時に起こった。

突然女性の叫び声がしたので驚いて振り向くと、女性の押すベビーカーの前輪が電車とホームの間に挟まってしまっていた。慌てて助けに向かったが、なかなか前輪が抜けない。一旦この場を離れて非常停止ボタンを押すべきかと考えたが、間もなくして駅員さんが駆けつけ、力を合わせて前輪を抜くことができた。

〔PHOTO〕iStock

電車が遅れることもなく大事に至らなかったのだが、私が驚いたのは、ホームにも電車内にも多くの人がいたのに、誰も助けに来なかったことだ。そればかりか、多くの人が電車が遅れたら困ると言わんばかりの冷たい視線を女性に向けていた。そしてもうひとつ印象的だったのが、前輪が抜けた後に女性が本当に申し訳なさそうに「すみませんでした」と頭を下げたことだ。

私はこの時の怯えたような女性の表情を見て初めて、海外に出てからモヤモヤ感じていた子育てに関する日本との「空気」の違いが何であるかを理解できた。

思えば日本で子育てをしていた時、外出する際はベビーカーで行ける場所や子供がいても大丈夫な場所を選び、常に「ベビーカーや子供が他人に迷惑をかけないか」心配していた。ところが、アメリカまたオーストリアで過ごす間にその心配は自然となくなり、「子供と行ける場所を探す生活」から「子供と行きたい場所を探す生活」に変わっていたのだ。