営業目標とノルマは違う!? 疲弊する金融業界「営業現場」の実態

「ノルマの呪縛」はどうすれば解ける?
浪川 攻
 

数字に追われる日々

その仕組みが苛烈なまでになると、不正が誘発され、金融業の背骨と言える信用が失われるのだが、そこまでいかずとも、営業現場では営業目標の計数に追われ続ける結果として、金融のプロフェッショナルではなく、営業目標達成のプロフェッショナルが輩出されるという悲劇的な事態が生まれた。

銀行が若手職員を対象に開催する研修では、「顧客の悩みに耳を貸して、顧客が抱えた課題を解決するソリューション型営業に心がけよ」と論じられる。

しかし、その研修を終えて営業現場に戻った瞬間、顧客の悩みに耳を傾ける余裕などない数字に追われる日々が始まる。研修とオン・ザ・ジョブ・トレーニング(現任訓練)は、水と油のように混ざることはない。

かくして、銀行の現場では志や希望を抱いて入社した若者たちが絶望して離職する動きは後を絶たない。営業現場の崩壊であり、デジタル技術を武器に攻め込むフィンテックプレーヤーの脅威よりも現実的で、かつ、深刻な事態であると言える。

一筋の光明

銀行の営業現場の主柱は支店長や支社長である。一般職員にとって、支店長といえばかつては〝雲の上の人〟であり、さらにいえば、本部から権限を大幅に移譲されるとともに、部下たちの人事権をも握るという絶大な力を誇っていた。

だが、支店長はときとして、本部と戦い、社内ルールを曲げても顧客を苦境から脱出させ、部下の失敗の尻ぬぐいを買って出た。若手職員たちはその姿に憧れ、支店長に心酔した。

そのなかで、銀行で語り継がれる伝説の支店長も現れたのだが、近年、経営環境が厳しさを増すにつれて、そのような話は営業現場から乏しくなった。なぜか。

「指示する本部、指示される営業現場」というノルマ主義を支える上意下達的な構造の下で、支店長に移譲された権限は大幅に縮小され、営業目標達成の重みだけが増したからだ。支店長たちはたとえ、自身の意に添わずとも、営業目標に向けて馬車馬のように走る姿に変わらざるを得なかった。伝説の土壌は枯渇しかけていた。

だが、日々の取材を通じて、そうした過酷で硬直的な職場状況が目立つなかにあっても、独自の支店経営論を貫き通して部下の育成に注力し、顧客に丁寧に接するという〝銀行の営業現場のあるべき姿〟を追い続けている支店長たちがいまだに活躍している事実がわかった。

絶滅危惧種の生き物を発見したときのような、驚きと感動を伴った瞬間だった。