綿矢りさの新境地、女同士の恋愛と性愛『生のみ生のままで』

著者にインタビュー
綿矢 りさ プロフィール

現代を生きる二人を書きたい

―15歳から芸能界で生きてきた彩夏。若くして作家デビューされたご自身と重ね合わせるところがありますか?

小説が映像化される際に業界を垣間見ることができたり、私自身も写真を撮っていただく機会があったりと、他の業界より想像しやすい面はありますね。

それから女優は、年齢によっても、役柄によっても、求められる役割が変わっていく職業だと思うんです。直面する変化が大きくて、彩夏も病気になってしまう時期があるんですが、どうやったらそこから持ち直せるかを考えました。

―〈肉体的にはしっかりとまじりあえない分、果てがない〉。最初は怖々と、いつしか貪るように、二人は肉体を重ねます。相手の「くぼみ」や「白斑」に愛着を持つなど、隅々までをいとおしむ描写も印象的でした。

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性的なシーンを意識的に入れようとは思っていたのですが、いかにも、という感じにはならないように(笑)、私なりの官能的な表現で書きたいと思いました。何度も出てくるので、そのたびごとに違う印象になるようにとも考えましたね。

これまで書いてきた異性愛の小説では、男の子に近づいただけで照れるような片思いの女の子を登場させることが多かったので、男性の体をじろじろ見ることはできなかったのですが、今回は女性同士ということもあって、じろじろ見るシーンも多いです。書いていて、男性の体より、女性の体のほうが知識が豊富だと気づきました。

私自身が女ということもあるし、女性誌を読んできて得た情報もあるので、腰にしても、どうくびれているのかとか、お腹にどう脂肪がついているのかとか、細かいところまで具体的に知っているんですね。

 

―彩夏との交際を知った逢衣の母親は〈男の人を愛せる能力がちゃんとあるんだから〉と諭す。親との関係はどう考えて書かれましたか?

昔の小説や映画だと大反対する親がほとんどだったと思うんですけど、いまの時代、即、勘当だとか、家を出て行け、とはならないだろうなと。とはいえ本音では、自分の子どもには悩むことの少ない道を歩んでほしいと思っている親も多いかと思います。

同性愛の問題に限らず、物事は善・悪だけではなくて、状況に合わせて、人に合わせて、世間の流れはこうだけど、自分の親はこう思っていると考えていくことも大事なのかなと思います。

―LGBTという言葉の認知度が高まり、同性婚の議論が広がるなど、現実の環境変化は小説に影響を与えましたか?

それはあります。現代を生きる二人を書きたい、という思いは強くありました。逢衣と彩夏は、この時代を共に生きるための選択をしていきますが、5年前、あるいは5年後だったら、こういう決断はしなかったかもしれません。

私はこれまでも自分と歳の近い女性を書いてきましたが、これからも、いまの時代を生きる女性たちを書いていきたいと思っています。(取材・文/砂田明子)

『週刊現代』2019年8月3日号より