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「仕事にウンザリ」ありがちな違和感が、あの「偉大な発明」を生んだ

新連載「AIブームの次にくるもの」
完全自動運転車はできないし、人類の仕事の半分が消滅したわけでもないし、シンギュラリティとやらが来る気配もない──。
どうやら「第3次AIブーム」は終わろうとしている。だが、そのあとに来るものは? 人工知能、そして知能そのものの本質に向き合うことでその答えを導く連載がスタートします。

答えのイメージすら浮かばない質問

「スマートフォンの発明者は誰でしょうか?」

こうした質問をされると、多くの読者は、すぐにiPhoneを世に送り出したスティーブ・ジョブスの顔を浮かべるのではないだろうか。

正確には、その発明者はジョブス自身ではなく、1990年にアップルコンピュータ社から分離して発足した「ジェネラルマジック」の中心メンバーである、ビル・アトキンソン、アンディ・ハーツフェルドの2人と言われている。同社は松下電器産業(現在のパナソニック)やソニーなどとも資本提携の関係にあった。

その後、ジェネラルマジック社のエンジニアが、グーグル社のアンドロイドや、アップル社のiPhoneの開発に携わることで、スマートフォンに関するソフトウェア技術の開発が加速していくこととなる。

いずれにせよ、現在、誰もが手にしていると言って良い、スマートフォンに関しては、どこで、どのような人が開発していたのか、読者のイメージは、それほどずれていないのではないだろうか。

では、次の問いはどうだろう。

「インターネットの発明者は誰でしょうか?」

スマートフォン以上に多くの人が日々お世話になっている「インターネット」については、誰が発明したのか、どのようなところで発明されたのか、そのイメージすらも、あまりない読者が大半なのではないだろうか。

インターネットについて、よくある勘違いは、「アメリカの国防総省で、軍事研究として行われていたものが、民間の技術に転用された」というものである。

デュアルユース(軍民両用)研究の推進派にとっては残念なニュースかもしれないが、これは単なる勘違いである。

いや、それどころではない。「インターネットのはじまりが軍事研究」という思い込みは、現代社会の基盤とも言える情報技術の歴史そのものを見誤らせる、深刻な思い込みである。

どうして「深刻な思い込み」とまで表現する必要があるのか。それは、情報社会の未来そのものまで、見誤らせる可能性があるからである。

第一次AIブーム後の「萌芽」

時は1956年、アメリカのダートマス大学で「人工知能(artificial intelligence)」という言葉が作られて以来、コンピュータ科学の研究者は、人間を超えるAIの開発に躍起になった。当時の熱狂は、今のAIブームに近いものがあった。

一方、AIブームの真っ只中に誕生した「人間とコンピュータの共生」という概念は、コンピュータの役割を、あくまで人間の知的活動を補助する役割として描いており、その後の情報化社会の発展を予言するものだった。

1960年、アメリカの音響心理学者であり、アメリカ音響学会会長でもあったジョゼフ・カール・ロブネット・リックライダーは、「Man-Computer Symbiosis(人とコンピュータとの共生)」という論文の中で、人間とコンピュータとの共生関係を提唱し、このようなことを述べた。

「人間とコンピュータが共生することによって、人間はこれまで誰も考えたことのなかった方法で考えることができ、マシンはこれまで到達できなかったデータ処理が可能となるだろう」

リックライダーJ・C・R・リックライダー(1915-1990) Photo by Public Domain

この有名な論文でリックライダーは、人間とコンピュータの在り方について提言し、その提言を実現する具体的な方法論まで提示したのである。