由紀さおり『夜明けのスキャット』は、なぜかくも人を感動させたのか

時代の空気に合っていた
週刊現代 プロフィール

 よく聴くと、イントロ以外のメロディーも『サウンド・オブ・サイレンス』によく似てるんですよね。生前いずみさんはこの件に言及されていませんが、これは意図的にやっていることなんでしょうか?

渋谷 あえて似せたのかどうか、いずみさんの口から聞いたことはありません。でも、あれは明らかにいずみさんが『サウンド・オブ・サイレンス』を聴いて、こういう曲が書きたいと思って書いた曲ですよね。僕は側にいたからわかるんですが、いずみさんはとても素直な作曲家で、外から受けた刺激が、曲に自然と出てきちゃう方なんです。

 

山上 なるほどね。「パクってやろう」という意思はないと。

 あと、イントロのギターのくぐもったような独特の響きは、『夜明けのスキャット』オリジナルの編曲です。

山上 そのギター一本から始まって、ベース、ドラム、鍵盤が加わってくる。そして、2番のサビでストリングスが加わり、最高潮を迎える。作詞している時に僕が見た夜明けの光景とぴったり合っていて、初めて完成した音源を聴いた時は驚きましたよ。

渋谷 スキャットという、ただでさえこれまでの歌謡曲とは一線を画す曲なので、既成の歌謡曲っぽくない展開にしたいと思ったんです。ストリングスのパートは、クラシックでよく使われるフレーズを意識的に加えました。

山上 歌詞や曲の世界観を引き出した名アレンジです。ヒットの大きな要因ですよ。

渋谷 でも、正直僕は、なぜあんなに売れたのかいまだによく分からないんですよ。あまりに斬新な楽曲だったので、ここまで世間に浸透したのは想定外でした。

 今思えば、時代背景が重なり合います。東大の安田講堂攻防戦がちょうどこの年の1月。「安田砦」が陥落し、'60年代の学生運動は下火になっていく。『夜明けのスキャット』は、そんな'60年代の終焉と、新たな時代の到来を予感させます。まさに、時代の「夜明け」を象徴していた。

山上 当時はそんなこと考えなかったですけど、いずみさんはそういった時代の風を感じ取っていたのかもしれませんね。

渋谷 何より、50年経った今でも、由紀さんが『夜明けのスキャット』を歌い続けていることが、作り手としては非常に嬉しいことです。

よあけのすきゃっと/'69年3月に東芝音楽工業から発売された由紀さおりのデビューシングル。TBSラジオ『夜のバラード』のジングルとして使用されていた音源だったものを商品化、150万枚を超えるヒット曲に。第11回日本レコード大賞で作詩賞を受賞

『週刊現代』2019年7月27日号より