由紀さおり『夜明けのスキャット』は、なぜかくも人を感動させたのか

時代の空気に合っていた
週刊現代 プロフィール

時代の空気に合っていた

 あの曲は'69年の日本レコード大賞の作詩賞も受賞していますよね。

山上 はい。最初にお話ししたとおり、当時は駆け出しの作詞家で、苦労して作詞しました。作詩賞のおかげで、「この仕事を続けていける」という自信になりましたね。

 '70年にはヴァニティ・フェアの『夜明けのヒッチ・ハイク』という曲も流行りました。『夜明けのスキャット』の影響で、歌謡曲に「夜明け」というフレーズが浸透したんです。それくらい、影響のある曲でした。

渋谷 でも実は、制作時は『夜明けのスキャット』というタイトルがついていませんでしたよね。

 

山上 レコーディングの後になって、僕がいくつかタイトル案を提出したんですよ。ところが、東芝音楽工業のディレクターからも、プロデューサーからもOKが出ない。

そんなことが2~3回続いた後、とうとう向こうから電話がかかってきましてね。「今日が印刷物の締め切りだから、今日中にタイトルを考えて」と。ところが、僕のアイディアは出尽くしていて、何も新しいものが出てこない。作詞の時と同じですよ。

もう面倒くさくなっちゃって、「冒頭はスキャットなんですから、『スキャット』という言葉を使ったらどうです?」と軽い気持ちで言ったんです。

 確かに『スキャット』という言葉はまったく耳馴染みがなかった分、新鮮でした。頭に『夜明けの~』と付けたのは、東芝の方ですか?

山上 プロデューサーの方だと聞いています。曲のイメージを端的に表した、見事なタイトルです。

 詞やタイトルだけではなく、シンプルだけど美しいメロディーも、夜明けを思わせて魅力的なんですよね。ギターで始まるイントロ部分は、サイモン&ガーファンクルの『サウンド・オブ・サイレンス』に似ていると言われることもあったようですが。

渋谷 正直、イントロからして、そのままですからね。いずみさんに編曲を依頼された時、楽譜を見た瞬間に「『サウンド・オブ・サイレンス』と同じだ」と思いましたよ。

 あの曲は、日本では映画『卒業』のテーマとして'68年に大ヒットしてましたから、気づいた人も多かったでしょうね。

映画『卒業』に主演のダスティン・ホフマン(右)とアン・バンクロフト

渋谷 スタッフも当然、内心では「似てるなぁ」と思っていたんですが、それは誰も口にしませんでした(笑)。

山上 あの頃のいずみさんに頼まれたら、断るとか、意見するという選択肢はなかったですからね。