由紀さおり『夜明けのスキャット』は、なぜかくも人を感動させたのか

時代の空気に合っていた
週刊現代 プロフィール

山上 もともと、あの曲は『夜のバラード』(TBSラジオ)というラジオ番組のジングル(番組の節目に挿入される短い音楽)用に作られていたものだったので、1番しかありませんでした。

その時は「ルルル」というスキャット部分のみだったんですが、「あの曲の名前が知りたい」とリスナーからの問い合わせが殺到して、急遽レコード化することになったんですよ。

 

渋谷 そういう経緯があったんですね。編曲しておきながら、知りませんでした。

 『夜のバラード』で流れていたのは'68年。シングルがリリースされる前年から、曲の原形は出来上がっていたということですね。スキャット部分の「ルルル」「ラララ」「パパパ」という歌詞を付けたのは、由紀さんご自身なんだそうですね。

泉 麻人(いずみ・あさと)
'56年、東京都生まれ。編集者、フリーライターを経て、コラムニスト。『僕の昭和歌謡曲史』をはじめ、昭和歌謡に関する著書や寄稿文など多数

山上 ええ。白みゆく夜をスキャットで表現したんだそうです。あっこちゃん(安田章子、後の由紀さおり)は当時、主にCMの世界で活躍していて、スキャットの名人として業界では知られた存在でした。

僕はラジオをリスナーとして聴いていて、美しい曲だなと感じていたのですが、まさか、自分が後に続く歌詞を書くことになるとは思いませんでしたよ。

透き通った声のお姉さん

 すでに聴かれている曲に新たな歌詞を付けるというのは、なかなかないことですよね。

山上 苦労しましたね。いずみさんから依頼された時は、頭を抱えましたよ。だって、メロディーといい、由紀さんのスキャットといい、もう完璧なんですから。幻想的な夜のイメージが表現されていて、「これ以上、他に何も言うことがないな」と思っていました。

渋谷 でも、「愛し合うその時に この世は とまるの」から始まる2番の歌詞は、あの曲の雰囲気にぴったりハマっていて、素晴らしいと思いました。当時流行っていたポップスはキャッチーな歌詞がついていましたけど、あの曲はまるで正反対の、幻想的な世界観を想起させる歌詞になっています。