フランスでも衰退? 哲学教育の危機

変わるカリキュラムとバカロレア
西山 雄二 プロフィール

第一に、高校での文系、社会経済系、理系のコース分けは廃止される。

学生はまず、一般科目群を週16時間学ぶ。共通科目は、フランス語、哲学、歴史地理、道徳市民教育、第1および第2外国語(フランスでは中学2年生から第2外国語が必修)、体育、そして、新規導入される情報科学である。

2年次には専門科目を3つ、3年次には2つ選択履修する。これはイギリスのAレベル(一般教育修了上級レベル)方式を参考にしているらしい。高校在学時に自分の専門をより細かく学修しておくことで、大学の進路選択でミスマッチがないようにするのだ。専門科目としては、「歴史地理」「外国の言語・文学・文化」「人文学 文学と哲学」「芸術」「経済・社会」「数学」「工学」「生物学」などが用意されている。

第二に、複雑なバカロレア試験が簡略化され、平常点も加味されるようになる。

バカロレア試験は科目数が大幅に削減され、5月に専門2科目、6月に哲学と口頭試問で構成される。新たに設けられるイタリア式の口頭試験では、2人の面接官に対して、的確なフランス語で、学習した専門科目の知識に基づいて、自分自身の今後の学習計画を表現する能力が試される。成績評価として、最終試験は6割で計算され、新たに平常点が4割分考慮されるようになる。

バカロレア試験はこれまで何度か刷新されてきたが、今回はもっとも劇的な変化である。

だが、調査によると、6割以上のフランス人が改革に賛成しているという。3年次末に1週間で集中して実施される過酷な試験形式や複雑な制度を多数の人々は十分に問題視しているのだ。

 

守られた哲学教育の伝統?

数ある共通科目から哲学の筆記試験だけが残されたことに、哲学教員たちはひとまず安堵したようだ。フランスはこれまで通り、独自の哲学の伝統を保守したのだろうか。

これまで哲学の試験は初日だったが、改革後は最終日となる。総得点に占める哲学試験の割合も減る(文系なら15%から8%に半減)。

そうなると、哲学の試験はいわば消化試合のようなもので、十分に点数がとれている学生はさほど力を入れて勉強する必要はなくなる。工業系の学生にとってはわずか4%の配点なので、棄権する者さえ出てくるだろう。哲学科目の存在感が大きく後退することはまちがいない。

高校で共通科目の哲学は週4時間実施されるので、これまでの理系と経済社会系なみの時間数が維持される。ただ、文系に関して言えば、週8時間から半減することになる。学生が専門科目「人文学 文学と哲学」(週4時間)を履修するかぎりにおいて、以前と同じ時間数が維持される。

文系での週8時間の哲学は、大学の哲学科や文学科への進学希望者を輩出する要になってきた。現在でさえ人文系は苦戦しているが、専門科目の選択制が導入されることで、こうした学問分野への進学者はさらに減少するだろう。将来的には研究者や教員の育成の循環にも大きな影響が出ることになる。

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