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フランスでも衰退? 哲学教育の危機

変わるカリキュラムとバカロレア

フランスの高校では哲学が必修科目で、バカロレア(大学入学資格)試験にも出題されるなど、伝統的に哲学教育は中等教育の要をなしてきた。

しかし、現在、高校と大学のより適切な連携を目指すべくカリキュラムとバカロレア試験の改革がおこなわれており、哲学教育の衰退が懸念されている。

フランスの教育制度では、哲学を花形として、人文学の伝統はむしろ尊重されてきた。だが、そんなフランスにおいてさえ、現在の社会状況を踏まえて、人文学の教育制度が大きく変容しつつある。

日本では近年、人文学の危機が指摘されている。私たちが参照するべき事例として、フランスが人文学の活力をいかに保持しようとしているのか、その現状をリポートする。

高校で習う哲学――フランスの教育の伝統

「時間から逃れることはできるか」

「芸術作品を解釈することは何の役に立つのか」

「ヘーゲル『法の哲学』からの抜粋の説明」

これは、フランスの2019年度のバカロレア試験における、文系コースの哲学試験の問題である。

 

初日の午前中に実施される哲学は4時間の筆記試験で、文系、経済社会系、理系のいずれのコースの学生も全員受験することになっている。

受験生は3つのテーマからひとつを選んで、小論文を書き上げる。設問文から正命題と反対命題を導き出し、過去の哲学者の主張を参照して、妥当な結論を提示することが求められる(詳細は、坂本尚志『バカロレア幸福論 フランスの高校生に学ぶ哲学的思考のレッスン』(星海社新書、2018年)を参照されたい)。

哲学の授業は文理のコースを問わず、高校3年次で全員に必修である。文系なら週8時間、理系なら週3時間、哲学の授業を受ける。

教育省による年次指導要綱として、28の基本主題(主体、文化、理性、現実、政治、道徳など)が指定されており、古代ギリシアのプラトンから現代のミシェル・フーコーまで過去の重要な思想家が原典とともに学習される。

現在の哲学教育の理念と方法を定めたのは、1925年の教育省の通達である。哲学教育の目的は、高校最終学年までに学習した多様な学識を総合し、見識豊かな批判精神を有する市民を育成することである。哲学は高校までの一般教養を完成させる要とされるのだ。