「生活保護を申請すると、福祉事務所の担当者が本人の親、子、孫、きょうだい等に手紙を出します。内容は『扶養義務があるので、援助してくれますか』というものですが、『うちも苦しいから』と断ることもできます」(前出・稲葉氏)
もし援助を受けられることになったとしても、仕送りで不足する分は、生活保護を受けられる。働いている子やきょうだいがいても、申請をあきらめてはいけない。
実は、あまり知られていないが、生活保護ではおカネをもらえるだけでなく、暮らしを支える様々な制度を利用することができる。
東京都在住の村岡正雄氏(75歳・仮名)が自らの体験を語る。
「生活保護をもらい始めたのは'13年のはじめでした。東日本大震災の後、住んでいた家賃4万円のアパートが取り壊されることになり、立ち退くことになったのです。さらに、持病の治療もしていたため、高額療養費制度を利用したとしても、月6万円ほどの国民年金だけではおカネが足りませんでした」
村岡氏は都内にある生活困窮者を支援するNPOに駆け込んだ。社会福祉事務所で生活保護についての説明を受け、村岡氏は驚いたという。
「まず、医療費はタダになります。また、実際に生活保護で暮らし始めてから知ったのは、年間約1万6000円のNHKの受信料が全額免除になるのも驚きでした」
住民税もゼロ
健康保険は、生活保護の受給が始まると資格を喪失する。その代わりに、病院に行く前に福祉事務所から医療券をもらい、指定の医療機関に行くことで、医療費がタダになるのだ(医療扶助)。
介護サービスについても全額、介護扶助を受けることができる。自宅ならばデイサービス、ヘルパーの派遣を利用できる。特別養護老人ホームであれば生活保護をもらいながら入居することができる。
葬儀費用も約20万円以内の葬祭扶助が出る。税金についても住民税は非課税に、固定資産税も自治体の条例によって全額減免となる。
生活保護で安くなるものはこれだけではない。JRの通勤定期乗車券は3割引きになり、東京都であれば水道料金も10立方メートル分まで免除される。また自治体によっては霊園の維持料が減免される。
生活保護による特典を最大限生かすコツは、福祉事務所の担当者を味方につけ、何事も事前に相談をすることにある。前出の和久井氏はこう振り返る。
「体調が急に悪くなった時は馴染みの担当者にすぐに相談し、医療券を出してもらっていました。
さらに、三親等までの親族の葬儀に参列するための交通費が出ます。その場合は、会葬礼状が必須など条件があるので、先に確認をすべきです」
生活保護を賢く活用すれば十分に生活できる。それを知らず、少ない年金収入だけで生きるのは大きな間違いだ。最後に頼れるものがあることを知っておこう。
『週刊現代』2019年7月27日号より