別れるなら君も子供も…DV夫から逃げる妻を襲う「嫡出否認」の不条理

120年前の法律に苦しめられる女性たち
松岡 久蔵 プロフィール

A子さんが国を訴えた理由

A子さんはすぐに法的手続きに入り、2014年には長女の出生届を出すことができ、また16年1月初めには、長女が戸籍を取得することができた。あとは孫の戸籍ができるのを待つばかりだった。

しかし、ほどなくして予想外の事態が起きる。上の孫の小学校入学前に届くはずの、就学通知や健康診断通知が来なかったのだ。

 

「戸籍をようやく手に入れても、まだこんな扱いを受けなくてはいけないのか、と絶望的な気分になりました。長女も『こんなことなら、小学校になんて行かせなくてもいい』とショックを受けていました。

たかが就学通知や健康診断程度で、と思う方もいるでしょうが、そこでしか、入学式の日時や入学前に揃えておかなければならない教材などの情報を入手できないんです。つまり、孫は社会の入り口の時点で排除されているのと同じだったのです。

孫は小学校に通わせましたが、無戸籍児の親の中には、こうした扱いを受けてあきらめてしまい、子供に教育を受けさせることができない人もいるでしょう。無戸籍であることによって、不利益を被る人が少しでも減ってほしい……そう思って、訴訟を起こすことに決めました」

A子さんは2016年8月、長女と孫2人とともに原告となり、「夫だけに『嫡出否認』の権利を求める民法の現行規定は憲法違反にあたる」として、計220万円の損害賠償を求める日本初の訴訟を国を相手取って起こした。

A子さんらの訴えは、神戸地裁での17年11月の一審判決、大阪高裁での18年8月の二審判決ともに請求を棄却された。ただ、どちらの判決内容も、「嫡出否認」の規定自体は子供の利益を考えた上で合理性があるので合憲としつつも、夫の暴力から妻や家族を保護するための法整備の必要性を説くなど、A子さんらの主張にも理解を示すものになっている。

母や子にも権利は広がるのか

大阪高裁の判決は、母や子供に嫡出否認権を認めるかどうかについて「国会の立法裁量に委ねられるべき問題」と指摘した上で、「妻や子に否認権を認めることで無戸籍となるのを防げるのは一部にすぎない。戸籍、婚姻、嫡出推定など家族をめぐる制度全体の中で解決を図るべきだ」と述べた。

司法は問題解決を政治に委ねる格好となったが、法務省の山下貴司大臣は、今年7月20日に法相の諮問機関である法制審議会で、嫡出否認を含む家族法の見直しについて、10月からの秋の臨時国会を待たずに議論を始めるよう求めた。