「この出生届は間違っています」
逃亡生活の後、A子さんは親戚の紹介で営業事務の仕事につき、ひっそりと新生活を始めた。表札を偽名にするなど、Bの追跡をかわす工夫を凝らしながら、息をひそめるようにして子供を育てた。
追ってきたBといつ出くわすかわからない恐怖から、わが子と外で遊ぶこともままらなかった。
そんな時、Aさんは子供好きの男性Cさんと知り合った。
ふたりは交際に発展し、長女を授かった。無事出産したA子さんだが、出生届を出そうと最寄りの区役所を訪れた時、衝撃を受けた。
窓口の職員が「この子のお父さんはBさんですね。この届出は間違ってます」と言い、定規と赤ペンで書き直そうとしたのだ。A子さんは「勝手に書かないで下さい」と咄嗟に制止したが、当初はわけがわからなかったという。
その後、法務局の担当者から説明を受け、A子さんは「嫡出否認」という制度を初めて知った。
「嫡出否認」については、耳慣れない読者も多いはずなので、説明しておこう。
民法では 「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と定められている。さらに夫の側にだけ、妻が産んだ子供を自分の子供でないと否認することができる「嫡出否認権」が、子の出生を知ってから1年以内に限って認められている。
この奇妙にも見えるきまりは、
敗戦後、家制度そのものは解体されたが、長男が家
「日清・日露の両戦争を通じて一等国入りを果たそうとしていた当時の日本にとって、
『
この『家父長制』的な価値観