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別れるなら君も子供も…DV夫から逃げる妻を襲う「嫡出否認」の不条理

120年前の法律に苦しめられる女性たち

「戸籍制度に一生悩まされてきた、私のような人をもう出してはいけない」

こう話すのは、関西在住の60代女性、A子さん。元夫からの家庭内暴力(DV)から逃れた後、民法で夫だけに認められている、生まれた子との父子関係を否定する「嫡出否認」規定が原因で、別の男性との間に生まれた長女と孫が無戸籍児となった。A子さんとその家族を襲った「嫡出否認」の過酷な影響とは――。

(※関係者のプライバシーを考慮し、記述をぼかしている部分があります)

 

「別れるなら、君も子供も…」

1980年ごろ、A子さんは会社員のBと結婚した。最初は優しかったBだが、子供が生まれたのを境に、ささいなことで暴力を振るうようになった。

暴力は次第にエスカレートし、A子さんは顔面挫傷、右足関節捻挫などのケガを負ったという。しかも、A子さんに対するBの執着も強まってゆき、こんな異常な言葉をAさんに繰り返し投げかけるようになった。

「君が別れると言うなら、俺はきっといつか君を殺す。今すぐでなくとも、かならず殺してみせる。君一人で死なさない。自分もその時は死にます。俺はきっと殺す。どんな事をしても殺す。俺も死ぬ気でいるから君を殺す。俺にとって良いと思っている」

Bは同じ内容の手紙を常にA子さんの見える場所に置き、逃げないように圧力をかけていたという。さらには、「君が逃げれば子供を殺す。子供と逃げれば君の親や親族を殺す」とも脅し、周囲の人間も巻き込むと匂わせていた。

自分と子供の生命の危機を感じたA子さんは、結婚前に貯めた100万円が入ったキャッシュカード1枚を握りしめて、2人で家から逃げた。その時の様子をこう話す。

「何ヵ所も引っ越しして、Bが追いかけてくるのをかわそうとしました。保護してもらおうと色んな施設にも行ったのですが、『子供といっしょでは受け入れられない』と拒否されたり、相談員からは『お話は聞かなかったことにしておきます。ダンナさんが警察に捜索願を出せば、連絡しないといけないから』と言われ、途方に暮れたこともありました。

Bは私の親戚の住所も調べ尽くしていましたから、Bがまだ知らないと思われる遠くの親戚の家に、子供を一人で飛行機に乗せて逃がしたこともあります。とにかく当時は、貯金もみるみる目減りしていきましたし、いつBに見つかってしまうか、気が気でなかったのです。

保険の手続きなど、どうしてもBと住んでいた自治体に行かなければならない時もあり、私が乗っていたタクシーとBの車がすれ違って、危うく見つかりそうになったこともあります。手続きの最中も、Bの知り合いに目撃されるんじゃないかと心配でなりませんでした」