「簡単な手術です」を信じてはいけない
「腎臓がんが見つかった60代後半の男性が、栃木県の小山市民病院で、右腎臓の摘出手術を受けることになりました。ところが、誤って健康な左の腎臓が摘出されてしまったのです」
医学博士号をもつ弁護士の石黒麻利子氏が、この信じられないミスの経緯を明かす。
「間違いに気付いた医師は、摘出した腎臓を元に戻そうと試みたが、生着は叶いませんでした。
腎臓を2つとも摘出すると、腎機能が完全に失われるため、右腎臓は体に残されました。結果、がんが肺に転移し、男性は亡くなります。
事故の原因は単なる不注意。通常なら手術部位を間違えないように、手術前にマジックで印をつけますが、男性はそれを忘れられていた。さらに、手術直前、看護師が左右逆ではないかと聞いたそうですが、執刀医と助手の医師は、手術室に貼ったCTフィルムを確認して、『間違いない』と判断。ですが実は、助手の医師がCTフィルムを裏表逆に貼っていたのです」
脳血栓を除去するために頭蓋骨に穴を開けたら、反対側だった。左右逆の卵巣を摘出した。簡単な手術とは言わないが、初歩的なミスによる事故は後を絶たない。
未熟な研修医の大失敗
医療行為による予期せぬ死亡事例の報告を受ける第三者機関「医療事故調査・支援センター」(以下、センター)の発表によると、'15年10月から'19年5月までの間に、医療ミスによる死亡例は1380件も報告されている。つまり、平均して1ヵ月に約31人が、医療事故によって命を落としていることになる。
ただし、これはあくまで「病院が自己申告した数」にすぎない。ミスの疑いが生じても、事故として報告するか否かは、あくまでも病院の院長が判断するシステムになっているため、闇に葬り去られるミスも少なくない。
全国に約17万8000ある医療機関のなかで、報告実績のある施設数はわずか807施設で全体の0・5%にすぎない。死亡しなかったが、障害が残ったケースも含めれば、実際には何十倍もの医療ミスが起きていることになる。
ではどんなミスが多いか。上のグラフは、センターの'18年年報(対象期間は'15年10月~'18年12月)をもとに本誌が作成した医療死亡事故の内訳だ。