ロシア軍の短距離ミサイル「イスカンデル」(CC BY-SA4.0, Photo by Vitaly V. Kuzmin)

米ロ中「軍拡競争」再び…INF全廃条約失効で、世界は冷戦へ回帰する

日本が食い止めなければならない

冷戦時代、米国とソ連との間で締結された中距離核戦力(INF)全廃条約が2日、失効した。米国とロシアは、欧州や極東で中距離ミサイルの配備を進めるとみられ、INF条約に加盟していない中国を含めて新たな軍拡競争に発展する可能性が高い。

もちろん日本も無関係ではいられない。米国は在日米軍基地への中距離ミサイルの配備を検討、日本の防衛省も「島しょ防衛用高速滑空弾」という名前の短距離ミサイルの開発を進めており、自衛隊基地への配備検討を本格化させる。

 

ミサイル競争が再び始まる

INF全廃条約は「『力には力で対抗する』という考え方が軍拡競争を招くなら、双方がその力を放棄すればいい」という、いわば20世紀の外交が生んだ「妙技」だった。

具体的には1975年、ソ連がNATO諸国を射程に収める中距離ミサイル「SS20」を東欧に配備したのに対し、米国がNATO側に同じく中距離ミサイル「パーシング2」を配備する構えを示して、米ソ間の軍縮協議が始まった。

1987年、INF全廃条約が締結され、射程が500kmから5500kmまでの核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃が決まった。条約が定める期限の1991年6月までに、米ソ合わせて2692発の中距離ミサイルが廃棄された。ソ連崩壊後、条約はロシアに引き継がれている。

1987年、INF全廃条約を締結するソ連のゴルバチョフ書記長(当時)と米国のレーガン大統領(Photo by gettyimages)

INF条約は日本にとっても福音となった。当初、米ソは中距離ミサイルを「欧州ゼロ、極東は50%」で議論していたが、当時の中曽根康弘首相の働きかけで「欧州、極東ともにゼロ」となり、ソ連の中距離ミサイルの脅威が消えたからである。

しかし時は流れ、21世紀になると、ミサイル全廃の流れは逆戻りを始める。

2014年になって米国は、ロシアが開発した地上配備型巡航ミサイルが「INF条約に違反している」と指摘したが、ロシア側は否定。

一方のロシアも、米国がミサイル防衛システムを構成する迎撃ミサイルの開発に際し、テストの「標的」として中距離ミサイルの発射を繰り返したことについて、INF条約違反と批判してきた。

米国はミサイル迎撃実験を繰り返し、その成果のひとつとして2016年、ルーマニアに地対空迎撃システム「イージス・アショア」を配備。すると、ロシアは欧州にある飛び地のカリーニングラードに短距離ミサイルシステム「イスカンデル」を配備して対抗した。

さらにロシアは「イスカンデル」を構成する巡航ミサイル「9M729(SSC8)」を開発。トランプ米大統領は2018年12月、「SSC8はINF条約に違反している」として全廃を求めたが、ロシアが応じなかったため、今年2月、INF条約からの脱退手続きに入っていた。以上が現在までの大まかな流れだ。