ワン・ダイレクションもBTSも、みんなジャニーズから学んだはず

日本はすごい「教養大国」・前編
川崎 大助 プロフィール

ジャニー喜多川の「方程式」

奇しくも、ジョアン・ジルベルトの3日後に他界した、ジャニー喜多川が作り上げた大帝国がその代表例だ。男性アイドル・グループ(=ボーイ・バンド)の「形式」にかけて、日本はアジアにおいて、いや全世界に先駆けて、すさまじく独自の発展を遂げた先駆者としての一面がある。

 

つまり、こういうことだ。20世紀のポピュラー音楽、そのほとんどの直接的な発生源はアメリカだった。ジャズも、ロックンロールも、広義の「アイドル」も。あるとき、そのうちの種子のひとつがブラジルに飛来して、サンバと混じり合って、生ギターの上に結実して「ボサノヴァ」になる。

ジャニー喜多川は、戦後の日本において、かわいい少年をアイドルとして売り出すことを発想する。その背景には彼のアメリカ体験があった。

喜多川によるジャニーズ事務所の少年たちへの性虐待疑惑は、いつの日にか真相が解明されなければならない。だがそれが事実であろうとなかろうと、彼が築き上げたメソッドの効力がきわめて高いことに変わりはない。

言うなればマンガ界における手塚治虫のように、独特な「ボーイ・バンドの魅力の方程式」を開発したのが喜多川だったと僕は考える。そして、彼のメソッドは世界のいたるところで模倣されることになる。

これは、まだたぶんだれも言っていない学説だと思うのだが……2010年にイギリスから登場して一斉を風靡したワン・ダイレクションは、日本のSMAPを参考にしていた可能性がある、と僕は考えている。ひとりひとりが自由に個性的で、闊達で、融通無碍な「あの感じ」の魅力は、英米産のボーイ・バンドの歴史には、元来ほとんど見られなかった特徴だからだ。最も似ているとしたら、全盛期のSMAPだ。

そしてもちろん、BTSはジャニーズを含む、日本の男性アイドル文化の濃厚なる影響を受けている――いや、もっと正確に言うと、「日本の男性アイドル文化」を果てしなく高いレベルにおいて継承している、まさに夢のような成功例だと見るべきだろう。

謙虚に学んでいく

かつて僕は少女時代の曲を初めて聴いたとき「あ、ピチカート・ファイヴだ」と思った。明らかに日本の90年代の、しかも渋谷系の影響があった。モダンなポップ・ソングを量産することにかけて一日の長があった日本のそれを、見事に吸収して換骨奪胎したものがK-POPのヒット・ソングの基盤のひとつだということは、だれの目にも明らかだ。

つまり、K-POPの国際的成功の背景には、日本をも対象とした「ポップ音楽の先行者(先進国)」から謙虚に学んでいく「教養主義」があったということだ。

その逆に、自国に埋蔵している教養すら顧みることが「できなく」なっていった日本人が作ったJ-POPのほとんどは、海外マーケットどころか、同国人からも相手にされなくなっている。そこで生じた空白域を、いま韓国産の音楽がどんどん埋めているわけだ。ちょうど、TVドラマの世界ですこし前に起こったことと同様に。

またこの状態は、まさにそのまま、日本の他の産業と韓国のそれのアナロジーともなり得る。すぐに思いつくのは、家電メーカーだ。次点は化粧品メーカーか。かつては、圧倒的に先行していたはずの日本が、後発の韓国チームにものの見事に「追い抜かれていく」という状況が現実化した最初の例は、映画だったか。

この現実を見つめられない者の一部が、嫌韓などと言っては見苦しい言動にうつつを抜かしているのかもしれない。が、どれほど韓国を嫌おうが、それによって日本が再興することはあり得ない。

没落したのは、ただたんに、自分たちのせいだから。「先進国から学ぶ」という謙虚な姿勢を失ったせい、なのだから。それこそが「明治以来」の、日本の教養主義の根幹だった、はずなのだが。躍進のエンジンだったのだが。

(後編へ続く!)

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