ツタンカーメンの謎に新説!正体不明のミイラが彼の母親だった!?

「王家のDNA」解析からわかったこと
石浦 章一 プロフィール

ミイラのDNA鑑定が示す難しさ

ここまでお読みくださったみなさんは、このような詳細なDNA解析が実際におこなわれたという事実におどろかれるのではないか。いずれも国宝級のミイラたちなので、外見では見えない箇所の骨を削り取って分析にかけられたと報告されている。

 

1つの疑問は、3000年以上も前の遺体から、解析しうるDNAが採取できるのか、というものだろう。実際に、ここで紹介した研究に対しては、「そんなに古いDNAが高温多湿の悪条件下に残っているだろうか?」といった疑問の声も上げられている。

現在の技術をもってすれば、微量のサンプルからDNAを採取することは十分に可能だが、初めて棺を開けたハワード・カーターが1925年に、「湿気で壊れている」と述べたくらい、環境条件が悪かったのも事実である。調査の過程で何人もが直接、ミイラを触ったとの報告もあり、墓掘人や研究者のDNAが混在しているのではないか、という指摘もなされている。

解析者たちは、万全を期したうえで「同一個体のサンプルからは、必ず同じ結果を得ている」と説明しているが、誤差の少ない最新の次世代技術を使って微量サンプルから配列を直接調べないかぎり、同様の反論は出つづけるだろう。

興味深いのは、「ファラオの正体が判明すると厄介事が起こる」という批判だ。すなわち、必ず「我こそはファラオの子孫である」と名乗る人物が出てきてしまい、混乱が生じる、という言い分である。たしかに、どこの国でもそういうことは起こりそうだ。

みなさんは、保存中のDNAがなんらかの変化を受けないか、気にならないだろうか。私たちの体のなかのDNAは、どこから採っても同じものが得られる。血液中の白血球からでも、ほっぺの内側の皮膚からでも、骨の内部からでも、採取されるDNAはどれもみな同一のものである。何年も保存しておくと、ところどころが切れてしまい、小さな断片になってしまうが、塩基の配列は変わらないので、ぶつぶつともっと小さく切り離してランダムに配列を決めれば、コンピュータでつなぎ合わせて復元することができる。

じつは、現在では、ほぼすべてこの方法でゲノムの全配列が決定されている。問題は、ゴミの中にある細菌のDNAや、骨を採掘した人のDNAが混在していることで、古生物から採ったDNAの場合には、数パーセント以下が本物で、それ以外は他の生物のDNAが混ざっている、というのが現実だ。そのため、採取したサンプルのクリーニングや解析手法の重要性がつねに指摘されている。

果たしてここで紹介したツタンカーメンらのDNA解析ではどうだったのか、今後の研究の進展によっては、新たな展開が待ち受けているかもしれない。

しかし、数千年前の歴史に科学が新しい視点を加えられたのはじつに興味深いことではないか。それはひとえに、時を超えてミイラ、すなわちDNAを後世に残したファラオたちのおかげである。永遠の生を求めた「王家の遺伝子」が、文字どおりの遺伝子解析を可能にしてくれているのである。

ファラオのDNAが解き明かしたさらなる謎に加え、英国王室の歴史を書き換えた遺伝子解析の最新成果について紹介したベストセラー、『王家の遺伝子』もぜひご一読ください。