ツタンカーメンの謎に新説!正体不明のミイラが彼の母親だった!?

「王家のDNA」解析からわかったこと
石浦 章一 プロフィール

王墓から発掘された女性たち

KV35には、第18王朝の第7代ファラオであるアメンホテプ2世が祀られている。

アメンホテプ2世は軍神トトメス3世の息子で、これまでに見つかったファラオのミイラのなかでは最も高い、183センチメートルの長身を誇る。その彼の墓から、より高齢の女性(KV35から見つかった「elder lady」なので、「KV35EL」とよばれる)と、より若い女性(同様に「young lady」から、「KV35YL」とよばれる)のものとされる、2体のミイラが発見されたのだ。

 

ともに顔立ちがきれいに保存されていることから、DNAと顔の造形を活用することで、親族関係を見極めるには最適な例とされた。

さて、アメンホテプ2世の孫にあたるのが、アメンホテプ3世である。彼の王妃ティイは、何から何まで異質な王妃であったことが知られている。

アメンホテプ3世は10歳ほどの若さで王位に就いたとされており、即位の翌年、神に仕える高官であるイウヤとその妻チュウヤの娘ティイと結婚した。その当時は、第1王妃(正妻)は姉妹から娶るのが通例だったが、ティイの場合は例外だった。しかも、ティイは他国の低い身分の出身で、本来は王家に嫁ぐ資格をもたない女性だったという。

夫婦仲は良好だったと見られ、ティイが王とならぶ彫像がいくつも残されている。ティイは、王に匹敵する権力をもっていたと考えられている。したがって、イウヤとチュウヤも相応の力があったと思われ、彼らのために大きな墓がつくられた。

DNAには個人差がある

DNAを用いて、どのように親子・親族関係の鑑定をおこなうのか?

一般的なDNA鑑定では、私たちがもっているDNAを細胞から採取して、その配列を調べていく。以前は、DNAの含有量が多い血液や精液から採取されたが、現在は、ほんの少しの細胞があれば、鑑定に必要な十分な量のDNAを抽出することが可能だ。

DNAが採取できたら、あとはその配列を調べればよい。

DNAにはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種の塩基の並びによって、さまざまな遺伝情報が書かれている。その総体がゲノムだが、個々のヒトにおける配列の違い(すなわち個人差)は、500〜1000塩基 に1つ程度である。

ヒトゲノム全体における総塩基数は、父母それぞれから30億を受け継いで、総計で30億対=60億あるが、このうち約300万ヵ所に違いがあるといわれている。

逆にいえば、ヒトのDNAは意外に似ているともいえる。その違いは、わずか1塩基の場合もあり、これが「一塩基多型:SNP」である。また、「AG」の2塩基が繰り返しならんでいる箇所があり、その繰り返し数が異なるといった場合もある。

DNA解析でミイラの謎に挑む(photo by iStock)

ティイは誰なのか?

調査の結果、面白いことがわかってきた。KV35ELがもつDNAの組み合わせがイウヤとチュウヤのそれに合致し、彼らの娘に該当しそうであることがわかってきたのである。

KV35ELはDNAの3ヵ所において、イウヤとチュウヤの娘として異論がない、という結論が出された。一般の親子鑑定では、このような領域を何ヵ所も調べてすべて一致していれば、ほぼ親子であると断定している。

実際に、KV35ELのミイラは、左手を胸に当てて埋葬されていた。これは王妃のしるしであり、王の場合は胸に両腕を交差するかたちで 埋葬されている。

そして、KV35ELの顔は、母親であるチュウヤの面立ちによく似ていた――。