「うつ病は血液検査で診断」の時代が来る

注目の物質PEAでわかること

うつ病診断の現場

私は多数のうつ病の方を診ているが、診断を下すために問診する際に、以下のようなやりとりが本当に起こっている。

  • 医師「抑うつ気分はありますか?」
  • 患者「いえ、ありません」
  • 医師「(あれ、おかしいな、問診票には憂鬱だって書いてあるのに……)抑うつ気分は、本当にないですか?」
  • 患者「はい、うつは抑えられていません。だから抑うつはないです」
  • 医師「……」

「抑うつ」とは気分が落ち込んだ状態のことだが、もともと翻訳語で日常的に使われることも少ないから、言葉自体に馴染みのない人もいる。字面だけ見て、「うつが抑えられている状態」と解釈してしまってもおかしくはないのかもしれない。しかし、まったく反対の意味になってしまうのだが……。

そのほかに、上述の「落ち込む」という表現もくせものだ。

「夜になると落ち込みます」という患者さんもいる。よくよく聞いてみると、「明日の仕事のことが不安で緊張してくるんです。怖くなって落ち着かない」という。不安、緊張が主に起こっているだけで、ダイレクトにうつが起こっているわけではないようだ。

実際には、この患者さんでは、午前中の抑うつが顕著で、十分に頭が働かなくて仕事の効率が悪く、ぼやっとして気分が悪いことが多いという。つまり、朝に抑うつが強く、夜に不安が強いというふうに症状が出ていると解釈できる。

うつ病の診断は、言葉を介した問診によって行われる。言葉というものは曖昧で、人によって解釈が異なることもあるため、コミュニケーションエラーが起こりやすい。しかも医師は、問診でのやりとりをもとに、自身の経験則と長年の勘に基づいて主観的に診断を下すから、医師によって診断が異なることも珍しくない。誤診もあり得る。

【写真】問診による診断は難しい面がある
  問診による診断は、コミュニケーションエラーが起こりやすく、経験則と勘に基づいた主観的なものになりやすい photo by gettyimages

現状のように全面的に問診に頼っている限り、うつ病の正しい診断にたどり着くことは難しい。そして言うまでもなく、診断が正しくなければ、治療がうまくいくはずもない。

ならば、言葉に頼らない客観的な方法でストレスや精神疾患を診断できないものか――。そう考えて、私は国立精神・神経センターに在籍していた2000年頃から、うつ病の指標となるバイオマーカーの探索に乗り出した。糖尿病などの内科の病気と同じように、うつ病も血液中の物質を測定することで、客観的に診断できるのではないかと考えたのだ。