台湾海峡。最も狭い所で幅は130km(photo by gettyimages)

米中対立で緊迫する「台湾海峡有事」そのとき日本は何をすべきか

戦闘機が停戦ラインを超えた

現在わが国を取り巻く国際情勢を見ると、中東では米国の対イラン強硬政策によってホルムズ海峡で緊張が高まっており、わが国も関連船舶護衛のために自衛隊の艦艇等を派遣するか否かが問われている。

また、お隣の韓国との間では、これまでの外交的経緯から、わが国が安全保障に関わる輸出制度を見直したことに韓国側が激しく反発し、米国などを巻き込んで外交の場でしのぎを削っている。

しかし、何にもましてわが国における安全保障上最大の脅威となる事態が目前に迫ろうとしていることに、どれほどの人が気付いているのだろうか。それは、来年1月に行われる台湾総統選挙へ向けて、わが国と目と鼻の先にある台湾海峡の雲行きが、かなり怪しくなってきているという現状のことである。

 

迫りくる暗雲

来年1月の台湾総統選挙に関して中国政府が神経を尖らせているのには、最近に生じた二つの出来事が関連している。

その一つは、香港における大規模な民主化デモである。犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯条例の改正」に端を発する大規模な民主化デモとこれに伴う中国と香港行政府の対応から、中国における「一国二制度」の心もとない実態があらわとなった。これによって、台湾市民による中国への不信感がつのり、これが次回の総統選挙にも影響を及ぼそうとしている。

もう一つは、長年にわたり「一つの中国」の方針のもと差し控えてきた、米国による台湾への武器売却が再び始まったことである。トランプ政権は7月8日、台湾に対してMIA2エイブラムス戦車108両など22億ドル(約2400億円)相当の武器を売却することを承認し、米議会に通知した。これ以外にも、昨年9月にはF16戦闘機などの部品3億3千万ドル分を、今年4月にはF16戦闘機の操縦訓練プログラムや支援機材を約5億ドルで売却することを決めている。中国政府はこれに激しく反発し、その矛先は台湾の現政権へも向いている。

このような中で現台湾総統の蔡英文は、約1週間にわたって米国を訪問し、在外公館関係者や企業家などと公式な会合を行い、米国国会議員などとも交流した。現職の台湾総統に対して、これだけの公式行事を米国が許可するのは近年ではなかったことである。

つまり、これは米国が次回の総統選挙で現政権を支援するということを暗示しており、親中派の野党国民党を支援しようと企図する中国との間で、台湾を舞台に政治的闘いが始まっているということに他ならない。

そして、これらの事象が台湾統一を死活的国益とする中国と、(台湾統一によって)東アジア全域での覇権確立を目指す中国に危機感を抱く米国との間で、同地域における米中双方の軍事的な対峙が顕著になってきているのである。

台湾海峡における中国の軍事的対応

7月24日、中国政府は4年ぶりとなる国防白書「新時代の中国国防」を発表した。中国はこの白書の中で、南シナ海の島々や釣魚島(わが国の尖閣諸島)は「中国固有の領土」と主張するとともに、「南シナ海で引き続き施設を建設し、東シナ海でもパトロールを続ける」と強調した。

 

また、台湾問題については、「台湾独立勢力が最大の脅威だ」と位置づけ、「武力の使用は放棄しない。台湾を中国から分裂させようとする動きがあれば、中国は一切の代償を惜しまず国家の統一を守る」と強い言葉で米国をけん制した。そして、これに合わせるような軍事行動も今年に入って顕著になりつつある。

特に注目すべき活動は、以下のとおりである。

① 3月31日、中国の戦闘機(J-11)2機が中台間の事実上の停戦ラインである中間線を越えて台湾側に約10分間にわたり侵入した。戦闘機などの軍用機による中間線越えは中台の暗黙の合意で、第三次台湾海峡危機(1996年)以降ほぼ守られてきたものである。

②6月11日、中国海軍のクズネツォフ級空母「遼寧(CV-16:65,000トン)」を始めとする北海艦隊の艦艇で編成された6隻の空母艦艇群(グループ)が東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡(南下)して太平洋へ進出し、グアム付近まで航行した。

中国海軍の空母「遼寧」

③ 6月末から7月初旬にかけて、中国軍は南シナ海のスプラトリー(中国名:南沙)諸島周辺で演習を実施し、新型の弾道ミサイル「DF21D(通称:空母キラー)」6発を発射した。

④ 7月14日、中国国防省は人民解放軍(中国軍)が南東部沿岸沿い(台湾海峡付近)で海空演習を行ったと発表した。

⑤7月25日、6月11日にグアム付近まで航行した空母艦艇群の艦艇6隻のうち、空母「遼寧」及びルージョウ級駆逐艦1隻を除く駆逐艦「ルーヤンⅢ」、フリゲート艦「ジャンカイⅡ」2隻及びフユ級高速戦闘支援艦の4隻が、沖縄・宮古島間を航行して太平洋へ進出した。この2日後、東海艦隊所属の駆逐艦及びフリゲート艦の2隻が同じく同海峡を航行して太平洋へ進出した。これらの艦艇グループは、西太平洋などにおいて対抗演習を実施したものと推定される。

⑥7月28日から8月2日までの間、台湾北方の東シナ海と台湾海峡南方の海空域において、広範囲に航行禁止海域を設定し、海、空軍及びロケット軍など全軍種が参加したと思われる大規模な演習を実施した。