帰りたい…
ちょうど運良く、遠縁の親戚が実家を買いたいと言ったので、売却。「実家の管理は大変だし、助かりました。それに、売るなら、税の控除を受けられるうちじゃないと損ですからね。母も、現金があるほうが安心だろうし」とタクヤさん。
こうして、母親は神奈川に出てきました。
ところが、神奈川に来て2か月が過ぎたころ。母親の部屋から話し声が。故郷の友人と電話で話しているようでした。
帰りたい……。
立ち聞きをするつもりはありませんでしたが、母親の声が聞こえてきました。

母親「息子も嫁も良くしてくれるけれど、さみしいわ。みんなに会いたい。こっちは、友達がいない」
母親「お昼間は、2人とも仕事だしね。テレビばっかり見ているけど、つまらない。1日が長くて……」
母親「そっちに戻りたい。帰りたい……」
しだいに涙声に……。
タクヤさんはいたたまれず、急いでその場を離れました。聞かなかったことにしようと思いつつも、「もしかして、僕は取り返しのつかないことを行ったのでは」という気持ちが、振り切っても振り切っても消えなくなってしまいました。