直木賞作家の姫野カオルコさんの「ジャージDE受賞会見」(2013年)を今でも鮮明に覚えている方が多いだろう。これ、別にウケを狙ったわけではなく、通っているスポーツクラブでエクササイズをしながら選考結果を待っていただけだった。

そんなわけでわが道を行くヒメノさん、実は「人生の10分の9は食べ物のことを考えている」という。このたび初の食エッセイ『何が「いただく」ぢゃ!』(プレジデント社)を刊行。食の雑誌「dancyu」での異色人気連載を大幅に加筆&修正してまとめたものだが、これまたわが道を突き進む爆笑エッセイとなっている。

今回は刊行&8月1日に開催される姫野さんとdancyu編集長とで行われるトークイベントを記念して、本書より「最強のレシピ」と題されたエッセイをそのまま抜粋掲載する。

ガッツ石松さんのジャブ

レシピといえばガッツ石松さんだ。
『10キロならすぐやせられる──食べて飲んで脂肪を落とす9日で10キロ減量法』という著作があるのだ。
 
1984年に出た。版元は青春出版社。『試験にでる英単語』を大大大ヒットさせた出版社で、ガッツさんの本も、けっこうヒットさせた。なんといってもタイトルが購買心をわしづかみにする。元ボクサーが言うことだからきっとホントだ、10キロ「も」やせられる、「すぐ」やせられる、しかも「食べて飲んで」。「よし、これなら」と、人々のハートに、魔女っ子メグのようにしのびこむ。

1984年刊といい、魔女っ子メグといい、ノリが古くてすみませんが、この本を私が読んだのは2000年代だった。
 
たとえば、1カ月で5キロやせたいなら……。

朝食=果物少々・野菜少々・お茶1杯
昼食=サンドイッチ1皿・野菜1人前・コーヒー1杯・水1杯
風呂=30~40分
夕食=ビール1本・ご飯、茶碗半分・おかず少々・つまみ少々
就寝前=ウィスキー水割り1杯(他の水分も同じ) 

なんだそうだ。
え、ダイエット中なのにビールもウィスキーも飲んでいいの?
そっか、『食べて飲んで』ってタイトルに書いてあるもんね……」
 
読者はとまどう。元ボクサーのジャブに。

「でも、野菜一人前って……。どういう野菜を、どれだけなら一人前なわけ……?
おかず少々って……。おかずって……。どういうおかず?
つまみも……、ただ、少々って言われても……」

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「野菜」とは生野菜か、煮た野菜は「野菜」か「おかず」か。はたまた「一人前」とはどれくらいなのか。妄想が膨らむ Photo by iStock

質問したくても、すばやくかわす元ボクサーのフットワーク。
 
ボクサーではない人が、元ボクサーの厳しい減量体験を参考にしてダイエットしようとして読むならまるで不向きな本である。が、エッセイとしては名作である。思わず笑ってしまうパンチだ。