金融庁・遠藤長官が進める「ジョブローテーション廃止」の狙い

「心理的安全」なき職場の未来 後編
橋本 卓典 プロフィール

地銀内「疑似信金」の誕生

ジョブローテーションの影響は信用金庫、信用組合にも影響を与えるであろう。

地銀が地域限定職員を導入した場合、営利・非営利、根拠法の違いを抜きにすれば、地銀の各支店に営業担当者が常駐することになる。つまり、これは「疑似信金」の誕生と言っても良い。

「広域のジョブローテーションをする銀行だから、個人レベルでは地域に密着できない」というこれまでの常識は通用しなくなる。本当に地域の役に立っているのかという機能の勝負が始まる。

日本の信金信組、生活協同組合、農業協同組合、労働金庫などの協同組織、協働組合の歴史は、明治維新後の岩倉遣欧使節団に起源がある。

使節団が信組を輸入し、江戸時代から「報徳仕法」として数多くの農村復興を成し遂げていた二宮尊徳の弟子達を受け皿として任せたのだ。

使節団は、産業革命を学ぶ半面、近代化の代償として、銀行から中小零細企業や農民が見捨てられ、特に英国で社会の分断が深刻化していた実態を知った。

使節団の平田東助とドイツ留学中の品川弥二郎がドイツの信用組合を視察し、日本に帰国後、法制化に奔走。紆余曲折の末に1900年、産業組合法が誕生した。

信金信組、生協、農協、労働金庫などの協同組織は、弱者の排除ではなく包摂のために輸入されたのだ。

「地銀と同じ」と地域や顧客からみなされ、自分たちもそう勘違いをしているとしたら、自らの本分を見失っている。包摂による地域の持続可能性を担う誇りある存在であるはずだ。

信金信組の特徴は、融資取引先が出資者であるという「利益相反がない」点だ。営業エリアも限定されているために、地銀以上に地域に入り込めたのが信金信組だった。津々浦々までの地域密着は信金信組の専売特許だったともいえる。

ジョブローテンション廃止と地域限定職員による地銀の「疑似信金化」で、この風景は今後変わるかもしれない。

法人税を減免された非営利団体であるにもかかわらず地銀をまね、顧客のためにならない金融商品を売りつけたり、銀行から見捨てられた弱者のために設立させた理念を忘れ去り、地銀と同じ「優良顧客」ばかりを追いかけたりする信金信組は不要だ。

そして地銀が疑似信金化するのであれば、信金信組や協同組織が連携して、「疑似広域地銀」の機能を発揮することも可能だ。問題は形態ではない。地域金融の価値を決めるのは、他の誰でもなく地域の顧客・事業者なのだから。

橋本 卓典 (はしもと たくのり)  1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2006年共同通信社入社。経済部記者として流通、証券、大手銀行、金融庁を担当。09年から2年間、広島支局に勤務。金融を軸足に幅広い経済ニュースを追う。15年から2度目の金融庁担当。16年から資産運用業界も担当し、金融を中心に取材。『捨てられる銀行』シリーズ(講談社現代新書)は累計23万部を突破。2月13日、その第3弾『捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』を上梓した。著書はほかに『金融排除』(幻冬舎新書)がある。