金融庁・遠藤長官が進める「ジョブローテーション廃止」の狙い

「心理的安全」なき職場の未来 後編
橋本 卓典 プロフィール

地域限定職員に脚光

ジョブローテーションが廃止されると何が起きるのかを展望する。

金融庁幹部は「各地方銀行が地域限定職員の配置を進めていく可能性はある」と語る。

親の介護や家族の病気などを理由に、地域限定社員を選択するケースは事業会社でも決して珍しくない。銀行が地域限定職員のポストを拡張していく合理性が2つある。

一つは、前述の通り、地域限定職員を配置することで、顧客密着サービスを深掘りすることができるようになる。これが主目的だ。

預金送金決済などの誰でもできるトランザクションサービスは否応なく自動化が進んでいく。人に残る仕事は、コーチングやメンターなどの「人を本気にさせること」だ。時代の変化に対応した新たなリレバンのスキルであることは論をまたない。

もう一つは、あくまでも副次的な効果だが、人件費の抑制だ。地域限定職員は無制限に異動する一般の職員に比べて、給与が低いケースが一般的だ。

銀行のビジネスモデルは粗っぽく言えば、単純だ。低い金利で預金を集め、国債などで長期運用することによる利ざや「長短金利差」を収益の源泉としてきた。

長引く世界的な低金利で、この銀行のビジネスモデルが崩壊した。もはや銀行は「高すぎる銀行員の給与」を稼ぎ出せない構造不況に陥ったのだ。そうした銀行にとって、給与水準が低い地域限定職員を積極的に導入するのは「渡りに船」という訳だ。

「年収が下がる」と、銀行員は悲嘆に暮れるべきではない。副業の道で人生の可能性が開けるからだ。

所詮、銀行員生活は役員に昇格できなければ50歳ごろまでで、その後は出向だ。人生100年時代。わざわざ地域金融機関に就職したのだから、生まれ育った地元に貢献しながらできるだけ働きたいと考える者は少なくない。

地域の元気のために、自ら起業したり、地元企業や団体で自分のスキルを発揮し、新たな可能性を試すのが「未来の銀行員」の生き方ではないだろうか。

もし銀行員時代に地域のための仕事ができなかったのならば、ここからが人生の本番だ。「心理的不安」におののきながら、社内政治に精を出すつまらない残りの人生を送ることは本当に幸せなのだろうか。

組織に所属しても、しなくても、自分の生きた意味を自分で創っていくことが何よりも豊かだと視点を変えてみてはどうだろうか。決して、きれい事ではない。そうした真のバンカーを筆者は何人も挙げることができる。個は目覚め始めている。