金融庁・遠藤長官が進める「ジョブローテーション廃止」の狙い

「心理的安全」なき職場の未来 後編
橋本 卓典 プロフィール

ジョブローテーション廃止へ

そして金融庁から秋にも打ち出され、地方銀行などに一大変革をもたらすのが「ジョブローテーションの廃止」だ。

ジョブローテーションとは、文字通りの営業担当者の定期人事異動だ。

金融庁の監督指針にはこうある。

「人事管理に当たっては、事故防止等の観点から職員を長期間にわたり同一業務に従事させることなくローテーションを確保するよう配慮されているか。」

これを撤廃するのだ。これは金融監督の歴史的な出来事だ。事故防止とは、顧客と営業担当者との癒着、横領、不祥事などを指す。

銀行業界では金融庁検査官の指摘を受けた「後遺症」と思われる慣行を今も引きずっている。同一営業店で最長5年、同一顧客で最長3年といった営業の担当期間を各行が任意に設けているのだ。1年から1年半ほどで、顧客の担当を次々に替えている銀行もある。

筆者が金融の取材で、強い疑問を感じてきた一つがジョブローテーションだ。

金融庁はリレーションシップ・バンキング(顧客密着取引、リレバン)を2003年から提唱しているが、一方、ジョブローテーションで「顧客との密着防止」も求めてきた。アクセルとブレーキを同時に踏め、と金融業界に無茶を迫ったのだ。

「リレバンも不正防止も監督当局としてやらせています」という金融行政の最も無責任な部分だ。

物事には優先順位がある。信用不安払しょくのために、顧客との癒着を防ぎ、不良債権処理を果断に進めなければならない時期も確かにあった。しかし、局面は変わる。

少なくとも現状においては、コンプライアンスを守ること以上に「地域の元気」が最重要なのは当然のことだ。

本来のリスクアペタイトとは、何を置いても逃げてはいけない課題と、避けるべき危険の分別を指している。金融行政は「顧客に密着しろ」「密着するな」と、もっともらしく旗を振り、責任を金融機関に転嫁するだけだった。

範を示すべき行政機関自らが一番、リスクアペタイトへの理解が足りていなかったことは猛省に値する。例え相反する行政施策を打つ時でも、優先順位を明確にし、かつ徹底させなければならない。究極目的である「地域の元気」のためにならないことは、二度とやめてほしい。

話を本線に戻す。

営業担当の期間という時間的制約を乗り越えて顧客との信頼関係を築いた銀行員が今もいることは否定しない。しかし、顧客の立場からみればそうした頼りになるバンカーさえもジョブローテーションのために寄り添い続けてくれる存在ではないのだ。残るのは喪失感だけだ。

銀行員が異動の時期が迫るとレームダック状態になるか、次のポストがどこなのかを気にして「浮つく」のは序の口だ。

ひどい事例になると、異動間際に預かり資産業務で手数料の高い投資信託や保険商品を担当する顧客に売りつけて去ってしまうことも珍しくない。「二度と会う事はない」というスイッチが、人間の悪を発動させるのだ。