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金融庁・遠藤長官が進める「ジョブローテーション廃止」の狙い

「心理的安全」なき職場の未来 後編

これが「心理的安全」の金融庁長官メモだ

近く示される金融庁の新たな行政方針で「心理的安全」がキーワードであることは7月29日のコラムで書いた。

下のペーパーをご覧いただきたい。

遠藤長官が配布したペーパー

前回紹介した、遠藤俊英長官が6月下旬に職員に配布したメモだ。このメモから読み取れることは何か。

それは遠藤が金融庁内の上下関係、金融庁と金融機関との間、金融機関と顧客・企業との間で「心理的安全(Psychological Safety)」を求めているということだ。

さらに金融庁内の上下関係、金融庁と金融機関の間に「対話(Dialogue)」が書き加えられていることにも注目したい。

対話とは、互いの心理的安全が前提となって初めて成り立つ。遠藤メモには明示されていないが、金融機関においては、経営トップと本社幹部、本社と営業店、支店長と営業職員のそれぞれの関係性においてもノルマ、人事への影響が「心理的不安」として存在する。

不安という霧が立ち籠め「理念」が見えなくなり、いつの間にか「社内政治」だけが横行しているのではないだろうか。そう感じる銀行員、証券マン、保険関係者は少なくないはずだ。

今後、金融庁は銀行、証券、保険会社の経営トップに対して、経営戦略の巧みさ以上に「経営理念」を問うていく。理念と戦略、その先に展開されるサービス、商品は首尾一貫していなければ本来おかしい。

よもや顧客どころか世の中のためにもなっていない自分たちだけが儲ければ良いなどという前近代的な「独善的価値」など認められないのだ。

組織内部では「理念との整合性」が疑われる場合、心理的不安なく「逸脱の疑い」を気兼ねなく口にできなければ、既に営業の暴走に歯止めが利いていない可能性がある。

コラム執筆中、日本郵政グループが傘下のかんぽ生命保険の商品を委託販売する日本郵便の2019年度の営業ノルマを廃止する方針だというニュースが飛び込んできた。

我々は、これほどまでに大企業の経営の暴走を幾度となく目にしながら、未だに対岸の火事として傍観し続けている。日本郵政も商工中金、スルガ銀行の問題を傍観していたに違いない。

あるいは、自らの暴走に気づきながらも誰も止めることができなかった。理由は、逸脱を口に出せる「心理的安全」がないからだ。

我々は株主資本利益率(ROE)や株価収益率(PER)などという、瞬間風速の市場の数値で企業価値を評価したがるが、とんでもない勘違いをしている。会計年度を超える価値はなぜか一顧だにされていない。

社内を霧のように覆う「心理的不安」を機敏に察知して早期退職していく若手の数、そして「ここは口をつぐんでおいた方が身のためだ」と、社内政治を優先する社員の数の方が、営業が暴走し、経営が崩壊する会社組織の恐怖と恐らく相関関係がある。

「心理的安全」とは何かが分からないのであれば、直ちに「心理的不安」「心理的危険」の除去に取り掛かるべきである。何かの価値を得ようと思ったら、価値のない何かをやめることから始めるのが効果的だ。求める価値は一つでないかもしれず、そのうち見えてくるものもある。