京アニ放火事件…死亡者を全員解剖する理由と大変な困難

法医解剖医の視点から
西尾 元 プロフィール

法医解剖医が感じていること

法医解剖医が、今回のような重大事件の被害者を解剖することは、実はそれほど多くはない。法医解剖医は、決して犯罪被害者を毎日解剖しているわけではない。

だが、今回のように犯罪事件で亡くなった人があれば、原則として全員、日本のどこかで、法医解剖医が解剖することになる。

今回の事件で亡くなった人の半数以上は、20代から30代だという。将来ある若者が一瞬して命を奪われるという事件を引き起こした被疑者の責任は厳しく追及されなければならならない。

 

今後行われる裁判などのための基礎資料として、被害者の損傷の具合や死因をはっきりとさせておくことが必要になる。だれかがそれを記録しなければならない。そのだれかというのが、法医解剖医というわけだ。

法医解剖医が犯罪被害者の解剖をするのは、被疑者の責任を追及するという社会正義のためだ。それは、犯罪で亡くなった人の尊厳を守ることにもつながる。

解剖するときには、ただもくもくと仕事をこなすことにしている。だが、犯罪被害者の解剖を長らくしていると、解剖をしていて、虚しく感じることもある。

〔PHOTO〕gettyimages

今後の裁判の進行のことなどを考えれば、だれかがしなければならないことだとはわかってはいても、あまりに無謀な事件に巻き込まれて無残に亡くなった人を前にして、法医解剖医のできることは限られている。

被疑者が今回の事件を引きおこした背景について探求しなければならないだろう。先日、被疑者と同姓同名の人物が小説を応募していたことが明らかになったが、まだ詳細は見えてこない。

なぜ、今回のような事件が起こったのかは解剖しただけでは決してわからない。

なぜ、容疑者は無謀な事件を引き起こしたのか。そのあたりを明らかにすべきだ。そうしなければ、同じような事件がまたおこる。

被害者を解剖して死因を決めたり、裁判をして被疑者の責任を追及したりすることは確かに必要なことなのだが、それだけでは足りない。