京アニ放火事件…死亡者を全員解剖する理由と大変な困難

法医解剖医の視点から
西尾 元 プロフィール

火災現場で物が燃えると、中毒を起こすいろいろなガスが発生する。一酸化炭素や二酸化炭素、その他に有毒なシアンガスも発生するといわれている。

こうした有毒ガスを吸い込めば、中毒死することがある。火災が発生した現場では、酸素が消費されて欠乏する。酸素欠乏が死因につながることもある。

有毒ガスによる中毒死や酸素欠乏による死亡の他にも、火災現場で発生した熱が直接体に作用することが死因につながることがある。熱が皮膚に作用すれば、熱傷を引き起こす。その範囲と程度がひどければ、ショック状態となって死亡する。

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火災現場では、有毒ガスや熱作用によるショックなど、死因につながる原因がさまざま存在する。

火災現場で体が真っ黒になって見つかった人の死因を決めるとき、個々の有毒ガスが死因に関係した割合や熱の皮膚に対する作用が死因に関係した割合を正確に区別することは難しい。こうした場合に、法医解剖医は、死因を焼死と診断することにしている。

 

一方、遺体の外表には熱傷はないのに、血液の一酸化炭素濃度を測ると80%もあるという遺体を解剖したときには、法医解剖医は、死因を焼死とはしない。

一酸化炭素の中毒作用が死因に大きく関係したと判断できるので、死因を一酸化炭素中毒と診断する。

京都の事件で亡くなった人の死因の多くが焼死とされたことを考えると、熱による作用が体の表面に大きく及んだ遺体が多かったのではないかと推測される。