カオス化する「吉本興業騒動」、なぜマスコミは争点を見失うのか
反社会的勢力の問題こそ議論すべきだ先々週、このコラムで、お笑いコンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之さんと「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮さんらが、吉本興業の了解を得ないで反社会勢力のパーティーに出る「闇営業」を行って報酬を得ていた問題を取り上げた。その後、ようやく、この2人や吉本興業の岡本昭彦社長が記者会見を開いたが、問題の本質とかけ離れたところに議論が拡散して世論が混沌としてしまった印象が強い。
「岡本社長のクビ発言はパワハラだ」とか、「やっぱり吉本と芸人の間に契約書が無いのはおかしい」といった議論が、そうした拡散した議論である。しかし、筆者は経済ジャーナリストとして、そうした議論は脱線した議論であり、本質的に議論すべきポイントと異なるのではないかと首を傾げずにはいられない。

その一方で、前回の本コラムで表明した懸念が早くも浮き彫りになり、反社会的勢力一掃という闘いが、吉本興業にとっても、われわれの社会にとっても、やはり容易でないことが明らかになっているのは見逃せない深刻なポイントだ。
そこで、今週は、今一度、百家争鳴の議論を整理しておきたい。
対照的な2つの記者会見
では、冒頭で触れた2つの記者会見をおさらいしてみよう。
第一は、売れっ子芸人の宮迫博之さんと田村亮さんが先々週土曜日(7月20日)に開いた記者会見だ。
筆者から見ると、この会見で大きなポイントは2つある。
ひとつは、宮迫さんが声を詰まらせながら、「僕の保身からくる軽率な嘘から大きな騒動になってしまった。詐欺被害に遭われた被害者に、不快なつらい思いをさせてしまった」と述べ、頭を下げた点だ。宮迫氏は当初、問題のほぼ5年前の「闇営業」で100万円の報酬を受け取りながら、このイベントに出席していないとか、報酬を受け取っていないと、吉本興業に虚偽の説明をしていた。このことは詐欺被害者への思いがないばかりか、2重、3重に問題行為を繰り返す裏切り行為と指摘せざるを得ない問題だ。謝罪するのは当然と言えるポイントだろう。
2つ目は、2人が謝罪の後、話題を記者会見を巡る吉本興業の対応に対する不満の表明に移った点である。宮迫氏が「金額や経緯、事実について会見をさせてほしいと直訴したところ、吉本から「『静観でいきましょう』といわれた」と告白。会見開催を巡り、2人が弁護士を雇い、吉本とやり取りするようになると、「2人の引退会見か会社との契約解消か、どちらかを選んでください」とする書面が届いたと明かした。
同席した田村さんがやはり謝罪の言葉を述べながらも、会見開催については「(吉本への)不信感しかなくなった」と涙ながらに訴えたのは印象的で、同情を禁じ得ない場面だった。
そして、2人の不信感の象徴として、岡本社長が発した「お前ら全員クビ」発言が暴露された。岡本氏が2人を含む話し合いの席で、「記者会見やってもいいけど、やったら全員クビや。俺には全員クビにする力がある」という内容で、田村氏は「それを言われて、何も言えなくなってしまった」と心情を吐露したのだった。
2人は、さすが売れっ子芸人だ。この迫真の会見で、「悪いのは吉本興業だ」と言わんばかりの世論が形成されてしまった。
一方、この会見の2日後(7月22日)に開かれた岡本社長の記者会見は、芸人2人の迫真の会見と対照的だった。回りくどくて、いったい何を話したいのか。全体像を示すこともなく、冒頭からいくつもの各論の細部を羅列する格好となり、聞く方は理解できず、じれったいものだったのだ。
本コラム執筆のため、改めてYouTubeで会見模様を見直してみたが、やはり辛抱強く見聞する必要性に変わりはなかった。ちなみに、岡本社長は冒頭の起立したままの発言と、着席後の質疑に入る前の冒頭ステイトメントで、ざっくり4つのことに言及したと言える。
その4つを列挙すると、
である。