彼のスケート以外のパフォーマンスに感動したことは前にもある。ダンスはもちろん、前回の氷艶でも、仮面をつけた高橋さんがリンクの上の舞台にスケート靴をぬいであがり、日本舞踊とヒップホップの手踊りで、観衆を魅了した。しかし、歌は初めてだった。

そもそも、初めて披露する歌が横浜アリーナの大空間って、どういうことよと思う。
関係者によると、当初は歌は収録しようという話だった。しかし高橋さんがどんどん歌がうまくなり、生で歌うことに変更になったのだ。公式コメントでは「生歌に変更になり、正直恥ずかしかったですが、この作品の為、『やるっきゃない』と腹をくくりました」。

腹をくくった高橋さんが爆発的な力を発揮することを、ファンは何度も見てきている。この歌はまさに「爆発的」だった。

高橋大輔自身と役柄が重なる

そもそも今回のタイトルの中の「月光かりの如く」は、宮本亜門さんが、光源氏の影や孤独を月にたとえたそうだ。宮本さんいわく「高橋さんは華やかさと同時にどこか影がある。高橋さんのそういう憂いを光源氏の役に重ね合わせていければ」。

高橋さん本人も、そういう部分が自分にあることは認めている。非凡なアスリート故の孤独か、生まれもっての性格か。いや、「これだけ」ということではなく、これまで、高橋さんが選手として人として悩み苦しんだ経験、引退後の戸惑い、すべてが血肉となり、今回の演技と歌につながったのではないか。

ⓒ氷艶2019

昨年、生涯の友であるデニス・テンさんの悲劇の死にみまわれた経験も、愛する人を奪われた慟哭に感情移入する一因になったのだろうか。役と個人、両者の圧倒的な孤独が、最後の身を切るような慟哭の舞で重なった。その圧巻の舞に「今までの大ちゃんのことが重なり、涙がとまらなくて」と涙をふいていたファンもいる。スケートを軸にパフォーマーとして生きる彼の本気がそこにあった。

ラスト、高橋さんが幻影として宙を舞い、B`zの松本孝弘さんが作曲したドラマティックなテーマ曲がかかり、終幕。鳴りやまぬ拍手の中、ジャンルを超え、新しいエンターテインメントとしての化学反応が起きたあとのエネルギーがうねっていた。出演者たちは、それぞれが違うジャンルへの挑戦で、見知らぬ自分を発見したのではないだろうか

前回もフィギュアファンが歌舞伎に興味を持ち、その逆もあったという。今回も足を運んだそれぞれのファンが、ほかのジャンルや知らなかった演者に興味を持ち、新たな文化交流が生まれたに違いない。フィギュアスケートはもちろん、エンタメの新たな可能性を開く「氷艶」が今後、どんな風に花を咲かせていくのか、見続けたい。

今回も3日間ではもったいなさすぎる。再演もぜひお願いしたいが、まずは9月、10月のBSとCSでの放送を待つとしよう。

最終日に高橋さんが公開したインスタグラム。充実した表情がすべてを物語っている 高橋大輔インスタグラム「d1sk_t」より
『氷艶2019』テレビ放映予定

9月1日(日)12:00~ BS日テレ・BS日テレ 4K「氷艶hyoen2019-月光かりの如く-」
10月5日(土)17:00~ 日テレプラス(CS)「氷艶hyoen2019-月光かりの如く- 完全版」